再び出会ったメイドのお願い
京太は、メイドに近づいた。
「どうかしたのですか?」
メイドは、市場の往来で、膝を付いた。
「お願いです、私を雇って下さい」
突然のお願いに戸惑っていると、セリカが割り込んで来た。
「ここでは、人目もありますので場所を変えませんか?」
メイドは、顔を上げた。
「そうですね、私も不躾なお願いをして申し訳ございません。
宜しければ、私の自宅に来ませんか?」
――ついて行くしか無さそうだな・・・
京太は、仕方なく了承した。
「わかりました、他の者達も一緒でも構わなければお邪魔します」
「有難う御座います、では、ご案内致します」
京太達は、市場で買い物を終えると、メイドについて歩いた。
平民街を抜け、貴族街とは反対方向に歩いていた。
道を進むにつれて、街の景観が完全に変わっていた。
――ここは酷いな・・・
京太の目に映ったものは、テレビなどで見た事のある貧困層の住む場所だった。
周囲には、壊れかけた一軒家しか無く、道には人が転がっていた。
その中には、死んだ人や、動物の死骸もあった。
時折、綺麗に整えた女性が、男達に声を掛けていた。
女性は、京太を見ると近づいて来た。
「お兄さん、安くしとくから遊んで行きなよ」
女性は、そう言うと京太の前に立った。
近くで見ると、女性の服装は、薄着で胸を強調し、短いスカートを履いていた。
「ねぇ、いいだろ、このままだと飢え死にしてしまうよ」
その言葉に、京太は、どうしようかと悩んでいると、クオンが京太に抱き着いた。
「お兄ちゃん、ダメ!」
京太は、クオンの頭を撫でた。
「わかったよ」
そう言うと、女性に近づいた。
「ゴメン、約束があるから」
そう言って、ポケットに入れていた銀貨を女性に手渡した。
女性は、渡された銀貨を見て驚いていた。
「あんた・・・・・」
「じゃあね」
京太は、その場を離れてメイドについて行った。
その先も同じような光景が続いた。
ボロボロの服を着た子供、ガリガリに痩せた赤子を抱くやつれた女性、
仕事が無いのか、昼間から酔いつぶれている男達。
そして亜人種と呼ばれる人達も住んでいた。
その中をメイドに従い、奥に進んだ。
暫く進むと、メイドは立ち止まった。
「こちらです」
到着した場所は、この景色に馴染んでいる一軒家だった。
「どうぞこちらへ」
家に入ると、思った以上に酷かった。
屋根には、穴が開き、隙間風も当然の様に吹いていた。
「ここに1人で住んでいるの」
京太の問いにメイドは、首を振った。
「いえ、もう1人住んでいます、【ノルン】」
メイドが、そう言って声を掛けると、物置の様な小さな場所から、獣耳の生えた少女が姿を現した。
「サリーお姉ちゃん、お帰り・・・・・」
「ノルン、こちらにいらっしゃい」
ノルンは、メイド(サリー)の隣に座った。
「自己紹介をさせて頂きます、私は、サリーと申します。
この子は、狐人族の子でノルンです」
「僕は、京太、それから・・・・・」
「クオン・・・」
「ソニアです」
「セリカです、よろしく」
皆がそれぞれに挨拶を済ませた。
「ところで、先程の話だけど・・・・・」
京太は、此処に来た事で、大方の予想は付いていたが、改めて聞く事にした。
「はい、私は、この街で暮らしています。
それで、あの屋敷を辞めると、他に仕事が無くて・・・」
「それで、雇って欲しいという事ですか」
「はい、お願いできませんか?」
「お願いされても、僕には家もありませんから」
「分かっています、ですので何処でもついて行きますので・・・」
サリーの必死さに疑問を感じた。
「何故、そこまで僕に雇って欲しいのですか?
何か、理由があるのですか?」
サリーは、素直に話を始めた。
「私は、この街で生まれましたが、両親も知りません。
ですので、出来る事なら何でもしました・・・でも、頼る人も居なくていつも1人でした。
ある時、大人達に捕まっていたこの子を見つけたのです。
それで、檻に閉じ込められていたので、こっそり近づいて話を聞いたら、
森の中で襲われて捕まったとの事でした。
私は、可愛そうに思って夜中に連れ出しました」
「それで、何故僕に?」
「はい、この子を狐人族の元に帰してあげたくて・・・・・
ですが、私は強くありません、でも貴方様なら、追手が来ても追い払ってもらえると思いました」
「それで、僕達に付いて行こうと思ったのですね」
「はい、ダメでしょうか?」
「ダメって事はないけど・・・・・」
京太は、皆を見た。
「私は、構わないのよ」
「私もいいわ」
「クオンも大丈夫です」
皆の返事を聞き、京太は、一緒に旅をする事にした。
「分かった、一緒に行こう」
その返事を聞いてサリーは、胸を撫で下ろした。
「有難う御座います、何でもしますので遠慮なくお申し付け下さい」
「いや、無理しなくていいからね」
その日は、サリーの自宅に泊まる事にした。
京太達は、市場で買って来た物を取り出し、食事をする事にしたが京太は料理が出来なかった。
「あの・・・京太様、私が作りますので休んでいて下さい」
サリーの申し出を受ける事にした。
「ありがとう、頼むね」
京太が離れると、女性陣達は、サリーと一緒に料理を始めた。
サリーの家から、いい匂いが辺りに漂うと、周囲の者達が集まって来た。
サリーの家の扉が叩かれた。
『ドンッドンッ!』
サリーが扉を開けると、子供を抱いた女性が立っていた。
「あの・・・差し出がましいお願いですが、この子に少しだけ分けて頂けませんか?」
ガリガリに痩せ細った女性は、懇願するような目でサリーにお願いをした。
サリーは、断ろうとしたが奥から京太が出て来た。
「タダであげる事は出来ないよ、でも、働くなら別だけどね」
それを聞くと、女性は、頭を下げた。
「何でもしますから、どうか食事を下さい」
「わかったよ、じゃぁ、これで食事を作ってくれるかな」
京太は、市場で買って来た食材を全て取り出した。
そして、大きな声で言った。
「見ているだけの者には、何も上げません。
でも、手伝うなら、食事をご馳走しますよ」
その言葉に、見ていた者達は集まって来た。
「何をしたら、いいのですか?」
それぞれに聞いて来る者達に必要な物を伝えた。
「場所も、火も包丁もありません、準備してください」
その言葉に、それぞれに動き出した。
「場所は、そこの広場でやろう」
「火は、儂が起こすよ」
各自が、足りない物やテーブルを広場に持って来た。
それから、女性陣は、料理を作りだした。
手の空いていた男達に京太が近づいた。
「手が空いているなら、皆が座れるように周りを片付けましょう」
男達は、その言葉に従い、広場の周りを片付けた。
料理が出来上がると、女性達が、各自持って来た器に食事を配った。
「うめえ!」
「美味しいわ」
それぞれが、笑顔で食事をしていた。
その様子を見た後、京太は、サリーの自宅に戻った。
「お帰りなさいませ」
サリーは、挨拶の後、謝罪をした。
「あの・・・すいません、私が扉を開けたばかりに・・・」
それを聞いた京太は、笑った。
「謝る事じゃないよ、気にしなくていいからね」
そう言って皆の元に向かった。
皆で食事を済ますと、京太は、広場に行ってみた。
すると、そこには、食事をした者達が待っていた。
その中から、サリーの自宅の扉を叩いた女性が前に出て来た。
「今日は有難う御座いました、久しぶりにこの子も私もお腹一杯食べる事が出来ました。
本当に有難う御座います」
皆も後に続くように口々にお礼を述べていた。
「気にしなくていいからね」
それだけ伝えると、京太は、戻って行った。
だが、遠くから様子を伺っている男がいた。
不定期投稿ですが、宜しくお願い致します。