王女の決断
音楽と共に入って来た王の家族は、王を中心に一列に並んだ。
「今宵は、シャトの街に召喚された竜を倒した事を、祝う宴である。
皆、多いに楽しんでくれたまえ」
王の挨拶に、拍手が起きる。
王が手を上げると、拍手が止んだ。
「今宵は、他にも伝えたい事がある。
それは、ここに居る我が息子、ナイトハルトが妻を迎えるのだ」
その言葉に、会場がどよめいた。
「ナイトハルト様が、ご結婚か・・・」
「何処の国の方なんだ?」
周囲からは、誰なのかと詮索する声が聞こえて来た。
会場が騒めく中、王がもう一度手を上げる。
「皆が驚くのも仕方がない事だ、しかし、これはこの国にとっても良い事なのだ」
会場は、静かに王の言葉を待っていた。
「では、紹介しよう、ナイトハルトの妻は、あちらのラム殿とフーカ殿だ」
周囲の貴族は、驚きながらも、拍手を送った。
だが、突然名を呼ばれたラムとフーカは、驚きを越して不機嫌になった。
「なんで、あんな男と結婚しないといけないの?」
「私も嫌!
京太さんと一緒にいます!」
ナイトハルトは、そんな二人の機嫌などお構いなしに近づいて来た。
「俺が、この国の第一王子のナイトハルトだ。
私の妻になれる事を光栄に思うが良い」
その言葉を聞いた2人は、京太の方を向いた。
「京太さん見て、鳥肌が立ったよ」
「私も、気分が悪くなりました」
大勢の前で、恥をかかされたナイトハルトは、怒りが込み上げて来る。
「貴様ら、今なら許してやる、俺の物になれ、
従わないとお前の仲間がどうなっても知らないぞ」
脅しをかけるナイトハルトに、ラムは舌を出した。
「嫌だよ、べーだ!」
「私もお断りします」
「貴様ら・・・・・」
王も驚いていた、第一王子の妻になら、喜んでなると思っていたのだ。
その為、何故断るのかが理解出来なかった。
――何故、嫌なのだ・・・・・
王が悩んでいる間に、宰相は兵を集めていた。
元々、宰相は、王家の物にならないのであれば、捕らえてしまえば良いと考えていたのだ。
その為、どちらに転んでもいいように、近くに兵を待機させていたのだった。
怒りが収まらなくなったナイトハルトは、兵を呼んだ。
会場内に、兵が雪崩れ込んで来て、京太達の周りを囲む。
「この者達を捕らえよ!」
京太は、王に問う。
「王よ、これが貴方のやり方ですか?
本当に、良いのですか?」
念を押す様に聞く京太に、王は、一抹の不安を覚えたが、
ナイトハルトが答えを待たずに命令を出した。
「この者達を捕らえよ!抵抗するなら、殺しても構わぬ」
命令に従い、武装した兵が襲いかかって来たが、
何時の間にか取り出していた剣で、京太が兵士達を切り倒した。
ナイトハルトは、一瞬の出来事で、何が起きたのか分からなかった。
「え!?」
その時、ナイトハルトの腕が飛んだ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
会場に響く悲鳴に、全員の動きが止まった。
京太が、静かに話し始めた。
「全員動かないで下さい。
動いたら切ります」
大声でもないのに、その声は、会場にいる全員に届いた。
京太は、ゆっくりと王に近づく。
「何故、僕達を殺そうとしたのですか?」
王は、今更ながら後悔していた。
宰相の『京太は、大したことは無い』という言葉を信じたばかりにこの悲劇を生んだ事。
また、京太の仲間を勝手に妻にしようとして、ナイトハルトが暴走した事。
後悔してもしきれない状況に、言葉が思いつかなかった。
その時、1人の女性が声を上げる。
「話しても宜しいですか?」
皆の視線が集まる。
「ご挨拶が遅れました。
私は、イライザ アトラ、この国の第一王女で御座います」
彼女は、そう言うと軽く会釈をした。
「僕は、京太です」
「京太様、この度の事、申し訳御座いません。
まず、妻の事は、お父様が、兄上に打診した事から、始まったと思います。
王家の妻にと言われたら、断る事は無礼に当たると思い、皆が受け入れますから」
京太は、その事を聞き、驚いた。
「では、皆は、受け入れるの?」
「はい」
「でも、僕は認めたくありません」
「分かっております。
強者のみが許される事だと思います。
それに、今回の事は、兄上には良い薬になるでしょう。
父上は、兄上を溺愛しているのでお分かりにならなかったと思いますが。
兄上は、権力に物を言わせてメイドや平民に手当たり次第に手を出していますのよ。
その為、評判も悪く、子供も何人いる事か分かりませんわ」
イライザの告発に、王は、ナイトハルトを睨み付けた後、ため息を吐いた。
「お前は、何をしているのだ・・・・・」
イライザは、話を続けた。
「次に、殺せと命令したのは、父上ではありません。
殺さなくても捕らえようと考えたのは、【フェルナン】、貴方ですね。
その証拠に、あんなに多くの兵が待機している理由がありませんもの」
宰相のフェルナンは、名前を呼ばれて焦りを覚えていた。
――なぜ、バレているのだ・・・・・
フェルナンは、逃げることも出来ず、狼狽えるだけだった。
「その者を捕らえなさい!」
イライザの命令で、王の近衛兵が、フェルナンを捕らえた。
イライザは、京太に向き直った。
「京太様、殺しても構わないと申したのは、兄上です。
勿論、王家の私達に責任が無いとは言いません。
ですが、どうか、お怒りを収めて頂けませんか?
改めて、謝罪はさせて頂きますので」
京太は反論をせず、『分かった』と一言だけ告げた。
イライザは、ラムとフーカにも謝罪を伝えた。
その日、パーティーは中止となった。
王は、1人、執務室に閉じ籠っていた。
――何故、こうなったのだ・・・・・
この状況になって、自身が感じた不安の意味が理解出来たのだ。
――最初に思った通りにすれば良かったのだ。
悩む王のいる執務室の扉が叩かれる。
コンッコンッ!
「お父様、宜しいですか?」
「イライザか、入れ」
精気の抜けた顔をした王に、イライザは言葉を掛ける。
「お父様、しっかりしてください!」
「ああそうだな・・・・・
イライザ、先程は助かった」
「私は、正直に申し上げただけですわ。
お父様は、その様な事をする方ではありませんから」
「ああ、そうだな・・・・・
だが、この後は、どうするのだ?」
「はい、それについては、私に考えがあります」
イライザは、笑顔で告げた。
「私が、あの方の所へ嫁ぎます」
「え!?」
「お父様、聞いていただけましたか?」
「すまない、私は、耳もおかしくなったようだ・・・・・」
「では、もう一度お伝え致しますわ、
私は、あの方の所に嫁ぎます」
「イライザ、どうしてその様な結論に至ったのだ、
分かる様に説明してくれ」
イライザは、説明をする。
私が嫁ぐことで、戦う意思が無い事の証明になる事。
京太を他国に取られる心配が無くなる事。
王の親戚として繋がりが持てる事。
これ以上の策は無いと王に告げた。
「確かにそうだが、お前は良いのか?
京太殿は冒険者だ、今迄の様な生活が出来るとは思えん」
「その事は、十分に理解しております」
「そうか、ならばもう何も言うまい」
「有難う御座います」
イライザは、何故か笑みを浮かべていた。
その様子を見て、王は思う。
――もしかして、好きだったのか・・・・・
翌日、王とイライザと京太は、王宮の応接室で会う事になった。
京太が、遅れて応接室に入ると、そこには王とイライザ以外に、
王妃、第二王子、第三王子、第二王女も待っていた。
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