広まる事件
昨日の疲れから、京太とミーシャは、寝坊していた。
朝食の時間になっても、起きて来ない2人を起こす為に、ソニアとセリカが部屋に向かう。
コンコンッ。
扉を叩くが返事が帰って来なかった為に、扉を開ける。
2人の目に飛び込んで来たのは、京太に抱き着き、幸せそうに眠るミーシャの姿だった。
「ね、ねぇ、セリカ、このまま放置しようか?」
「そうね、放っておいていいと思うわ」
そう言って、部屋を出ようとすると、クオンとエクスが部屋に入って来た。
「主、起きて下さい!」
エクスは、そう言って京太の上に飛び乗った。
「グエッ!」
「あははは、お兄ちゃん、カエルの鳴き声みたい」
周囲の騒がしさで、ミーシャが起きる。
「ん・・・・・お早うございます」
「ミーシャ、おはようです!」
エクスが、元気よく挨拶をする。
京太は、苦しそうに起きた。
「お・・はよう・・・」
「主、お早うございます」
「うん、エクス、下りてくれるかな」
「はい」
ゴソゴソとエクスは、京太の上から降りた。
「いつまで寝ているの!」
「あ、ソニア、セリカ、クオン、おはよう・・・」
「随分幸せそうに寝ていたわね」
「ははは・・・」
「まぁ、いいけど!」
拗ねた様子で、ソニアは部屋から出て行った。
ソニアが出て聞くと、セリカが声を掛けて来た。
「京太さん、食事に行きましょう」
「そうだね」
既にミーシャは着替えており、皆と一緒に食堂に向かった。
京太も昨日助けた者達を引き連れて食堂に向かう。
他の仲間達は食堂に居たので挨拶をし、昨夜の出来事を話した。
昨日、3人で出掛け、そこで声を掛けて来た男について行くと睡眠薬を飲まされ、捕まった事。
そこから、逃げる時に彼女達を助けた事を簡単に説明した。
その中の1人、狐人族のモイラは、目の前にいるノルンを見ていた。
「この子が、話に出ていた子ですか?」
「そうだよ、助けたのは彼女、サリーだよ」
モイラは、サリーを見る。
「どうして、貴方はこの子を助けたのですか?」
モイラは、その事がどうしても気になるようで、京太にした質問をこの場でサリーにもした。
「・・・・・私は、とある方の屋敷でメイドをしていました。
メイドと言えば、まだ聞こえは良いですが、奴隷です。
そして、朝も夜も分からない程働かせれていましたが
ある時、私の住んでいたスラムの男達に、捕まっているこの子を見つけました。
私は、この子が私と同じ様に見えて、気が付いたら、体が動いて助け出していました。
無我夢中だったので、家に帰って落ち着くまでの事は、あまり詳しくは覚えていません」
サリーの告白に、モイラは黙って聞いていた。
「・・・・・そうですか、貴方は、優しい方なのですね」
ポツリと呟くように出たモイラの言葉を、サリーは否定する。
「私は、優しくはありません。
この子を助けた理由も、同じような境遇に思えただけですから」
「それでも、貴方は、優しい方だと思います。
たとえ、そう思えても亜人を助けようとする人はいません」
サリーは、しっかりとモイラの顔を見る。
「そう言って頂けると、少し嬉しいです、ありがとう」
サリーは、膝の上に座っているクオンの頭を撫でた。
クオンは、笑顔でサリーに抱き着いた。
狐人族の里を知る者と出会った事で、この街を出る相談をしている頃、西区では騒ぎが起こっていた。
それは、エレオノールの部下のバッカスが殺された事だった。
朝、エレオノールの部下が、集金の為にバッカスの屋敷を訪ねると
屋敷の入り口周辺が崩壊していた。
急いで仲間を呼び、瓦礫を避けて行くと、そこにバッカスの死体が発見された。
部下の1人が、その事をエレオノールに告げると、エレオノールは激怒し、集合をかけた。
「いいかい、この地区にちょっかいをかけた者がいる、必ず探し出せ!」
「へい!」
集まった部下達は、情報を求め、街に散っていった。
そして、エレオノール自身も動く。
最初に向かったのは、領主の屋敷だった。
屋敷に着くと、中から執事の【アースラ】が出て来た。
「エレオノール様、この様なお時間に如何なさいましたか?」
「私の部下が殺された、その事で話がある」
事態を重く見たアースラは、エレオノールを屋敷の応接室に通した。
「只今、旦那様を呼んで参ります」
部屋を出たアースラは、急ぎ領主フィリップ オーウェンに知らせた。
「旦那様、エレオノール様が部下を殺されたとの事で、面会に来られております」
「そうか、直ぐに会おう」
フィリップ オーウェンは、応接室に向かう。
「待たせてすまない。
詳しい話を聞かせて貰えないだろうか?」
「詳しい事は、分かっていないわ。
今朝、私の部下が、バッカスの所に集金に行ったら、屋敷が破壊されていてね、
そこにバッカスの死体もあったのよ」
「それで、何か盗まれていたのか?」
「お金はあったけど、他はわからないわ。
でも、屋敷を調べたら、バッカスの部下の死体が、色々な所で見つかったわ」
「誰かに襲われた事は、間違いなさそうだな」
「ええ、それで、貴方の兵を動かして欲しいの」
「そうだな、急ぎ、警備を厳重にし、兵達も街で聞き込みをさせよう」
「ありがとう、感謝するわ」
エレオノールは、頼み事を終わらすと、屋敷から出て行った。
その頃、各地区にも、今回の騒動が知れ渡っていた。
〈北地区〉~
「旦那様、失礼いたします」
「なんだ?」
「はい、今朝方、エレオノール様の部下が、殺されたとの知らせが入りました」
「そうか、あの女は、部下に汚ねぇ事させていたから、恨みでも買ったんだろう」
バイロンは、何事も無かったかのような顔で言う。
「ですが、また、うちに難癖を付けに来ないかと・・・」
「来たら、追い返せ。
俺は、忙しいんだ、相手などしていられるか!」
「畏まりました」
部下が出て行くと、バイロンは考えた。
――厄介な事にならないといいがな・・・・・
エレオノールの部下が殺された話は、東地区、南地区にも話が広がっていた。
その為、2地区の代表もバイロンと同じ様な事を考えていた。
――厄介だな・・・・・
各地区の代表者が、そう思うには、理由がある。
エレオノールは、現領主フィリップ オーウェンとは、ただならぬ関係なのだ。
西地区全体が、繁華街として成り立ち、この街で一番の稼ぎを上げられていたのは、
領主の後ろ盾があったからに他ならなかった。
元々、その手の店は各地区にもあったが、数年前に今の領主に変わった時、
突然、治安の為に一纏めにすると、通達がなされた。
当然、各地区の代表は反対したが、領主は武力と権力で全てを抑え込んだ。
勿論、逆らう者もいたが、その者達は、言われも無い罪で投獄され、帰らぬ人となっていた。
その時に、エレオノールに逆らう者達も、投獄され、処分されていた。
その事を知っている各地区の代表達は、今回も何か仕出かすのではと不安に思った。
不定期投稿ですが、よろしくお願いいたします。




