地上へ行こう
京太は、記憶に従い、半壊した建物の中を歩いた。
ある部屋の前で立ち止まり、中に入った。
壁には、1本の剣が飾ってあった。
京太は、その剣を手に取った。
「エクスカリバー」
脳裏に現れた剣の名を言葉にすると、エクスカリバーは光を放った。
――本物のエクスカリバーなんだ・・・
その言葉に反応するようにエクスカリバーは、光を増した。
――反応しているのかな・・・
思わず声を掛けた。
「宜しくな」
エクスカリバーは、一瞬点滅をした。
京太は、嬉しさと興奮を覚えた。
その後、京太は、1人残された天界で魔法と剣の鍛錬をして過ごした。
天界には、昼夜が無い為、時間が分からなかったが、疲れる迄鍛錬をし、眠る生活を繰り返していた。
――そろそろ降りようかな
京太が、そう思った時には3ヵ月が過ぎていた。
出発を決めた京太は、鍛錬の合間に建てた12本の柱の1つ1つに挨拶をした。
最後に、1つの柱の前に立つと、京太は話しかける。
「アトゥム様、これより地上に向かいます」
京太は、柱に背を向けると、魔法を唱えた。
「ゲート」
何も無かった場所に、シンプルな扉が現れた。
天界に現れた扉を潜ると、そこには、青い空と森があった。
――ここが地上・・・
この世界に来て初めて降りた地上に胸が躍った。
――これから、この世界で生きて行くんだ・・・
辺りを見渡すが、見えるのは草原と森だけだった。
「さてと・・・」
京太は、魔法を唱える。
「マップ」
頭の中にこの辺りの地図が浮かび上がった。
――一番近い街は、ここだな・・・
現在地から、一番近い街に向かって歩き始めた。
距離は近かったが、思った以上に山あり、谷ありの道だった。
森を抜ける頃、ファングウルフの集団に遭遇したが、京太が力を注ぎオーラを発生させると
ファングウルフの集団は、逃げて行った。
――あ、あれっ・・・
オーラに恐怖を感じたファングウルフの集団は、一目散に逃げた。
――もう、オーラは出さない様にしよう・・・
戦闘にならなかった事に悔やんだ京太は、反省した。
また、山道を進んでいると、今度は、ビッグベアーに遭遇した。
「今度は、間違えない!」
京太は、アイテムボックスからエクスカリバーを取りだした。
ビッグベアーは、2本足で立ち、京太を威嚇してきた。
立ち上がったビッグベアーの大きさは、5メートル近くもあったが、京太に恐怖心は無かった。
剣を構え、一瞬で近づき、エクスカリバーを振り抜いた。
――あ、あれっ!?
切った感触は殆ど無かったが、目の前に居たビッグベアーは、2つに分かれていた。
「流石、エクスカリバーだね」
エクスカリバーは、一瞬光ったが、すぐに治まった。
――なんか、可愛いな・・・
ビッグベアーの死体をアイテムボックスに収納した後、再び歩き出した。
山の頂上を越えて、下り始めていると、途中で人の争う声が聞えて来た。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
「怯むな!」
京太は、声のする方向に走った。
辿り着くと、そこでは、馬車を襲う集団がいた。
――盗賊?
盗賊に襲われている馬車を助ける為に、ゆっくりと近づいた。
「てめぇ、何者だ!」
盗賊の1人が、剣を向けて襲い掛かってきた。
相手の動きが遅く感じたので、剣を抜かず、相手の剣を奪った。
「あれ・・・・・?」
男は、自分の手を見ていたが、京太に首を落とされて、絶命した。
そのまま馬車に近づき、盗賊達を次々に切り倒した。
突然現れた京太に恐れを抱いた盗賊達は、一目散に逃げだした。
「ひ、ヒィィィぃ!」
「ば、ば、化け物だぁ!!」
「逃げろ!!!」
慌てて逃げだす盗賊達を追う事はせず、馬車に近づいた。
「大丈夫ですか?」
京太の問いに答えたのは、馬車の中から出て来た男だった。
男の服装は、中世の貴族の様な恰好をしていた。
――この世界でも貴族・・・かな?
「危ない所を助けて頂き、有難う御座います。
私は、【ダイアン ホルン】と申します。
それから、奥にいますのが私の家内で【マーレ ホルン】です」
「僕は京太、この先の街に向かっている所です」
「そうですか、私共も街に帰る所でしたので宜しければ、護衛をお願いできませんか?
この度の襲撃で、護衛の者も減ってしまいましたし、貴方の様な強い方だと道中も安心ですので・・・
勿論、それ相応のお礼は、させて頂きますので」
ダイアンの誘いに、京太は乗る事にした。
「構いませんよ、行き先は同じですから」
「それは有難い、どうぞ宜しくお願い致します」
ダイアンは、礼を言うと、護衛長の男を呼びつけた。
「【コルレオ】、京太様をご案内しなさい」
「はっ!」
コルレオは、京太に近づいた。
「私は、ホルン子爵様の護衛長、コルレオだ、貴様は最後尾から付いて来い、他の者に迷惑を掛けるなよ!」
それだけ言うと、コルレオは、去って行った。
――怖そうな人だな・・・
京太は、言われた通りに最後尾を歩いていた。
途中で『ファングウルフ達』の気配がしたが、オーラを放つと姿を消した。
――護衛の時は、便利だな・・・
その後、街に着くまでの間は、何事も無かった。
街の入り口で、門兵に止められたが、子爵の馬車とわかるとすんなりと通された。
馬車は、平民街を抜け、貴族の屋敷の並ぶ通りに入っていった。
とある屋敷の前で馬車が止まると、中からメイド達が現れ、両側に並んだ。
「旦那様、お帰りなさいませ」
ダイアンが馬車から降りると、京太に話し掛けた。
「京太様、この度は、有難う御座いました。
代金や謝礼の事も御座いますので、どうぞ中にお入りください」
京太は、誘われるままダイアンについて行った。
ダイアンが、屋敷に入って行くと、メイド達は、馬車の荷物を運び始めた。
ただ、京太が屋敷に入る姿を見ていた護衛長のコルレオは、ニヤついていた。
「馬鹿め・・・」
そう言うと、他の兵士達と兵舎に戻った。
屋敷に入った京太は、ダイアンに促されるまま、応接室に入った。
「どうぞ、そこで暫くお待ちください」
ソファーに座り、待っているとメイドが、お茶を持って来た。
無言のまま、お茶を差し出したメイドを見ていると、手が震えていた。
――新人さんかな?
お茶に手を付けず、待っているとダイアンが入って来た。
「お待たせいたしました」
ダイアンは、正面のソファーに座った。
「京太様、こちらが謝礼でこちらが道中の依頼料です」
差し出された袋の中を確認する事無く、懐に仕舞う振りをしてアイテムボックスに収納した。
「有難う御座います」
「金額は、確かめなくて宜しいのですか?」
「はい、ダイアン様を信用していますから・・・」
「はっはっはっ・・・有難う御座います。ささ、お茶でも飲んでお寛ぎ下さい」
ダイアンに言われるがまま、お茶を飲むと、体が痺れる感覚に陥った。
――毒入りのお茶だったんだ・・・
「グフッ!」
手足が、完全に痺れて、手に持っていた湯飲みを床に落とした。
「この痺れ薬は良く効くようだな」
痺れて口も聞けない京太を見ながら、ダイアンは笑っていた。
ダイアンが手を鳴らすと、兵士達が入って来た。
「この者をいつもの様にしておけ」
「はっ!」
コルレオは、部下に命令を下して京太を運び出した。
不定期投稿ですが、宜しくお願い致します