盗賊のアジト3
盗賊のアジトに戻り、食堂で皆と落ち合う。
「ただいま、もう、大丈夫だよ」
「では」
「うん、盗賊は、倒したから・・・」
モニカは、胸を撫で下ろす。
盗賊が、居なくなれば妹の元に戻れるという希望があった。
今迄は、叶わないと諦めていたが、京太という存在のおかげで現実になりかけている。
盗賊が倒れ、生き残っていたのは、モニカと似たような過去を持つメイド達と囚われていた女性達、
それと、戦う事を放棄した兵士達だけだった。
生き残った兵士の大半が、モニカと同じ様に両親や親族を殺され、捕らえられた者の生き残りなので、
兵士とは名目だけで、殆んど奴隷に近い扱いだった。
その為、京太の降伏勧告を喜んで受け入れたのだった。
今、その者達が食堂に集まっている。
なので厳しい目を向けられているのは、元からの兵士達だった。
生き残ってはいるが、この場では、青い顔をしていた。
その雰囲気を感じ、近くにいた兵士に京太は近づき、話し掛ける。
「どうしたの?」
「いや・・・何でもありません・・・」
そう言ってその場を離れようとしたが、他に行く所が無かった。
この男は、元からの兵士だ。
その為、メイドや奴隷のように扱っていた兵士の元に行く事が出来なかった。
「う・・・あ・・・」
兵士は、先程以上に怯えていた。
それは、この男のして来た事にあった。
この男は、一個師団の隊長で、【幻惑の花】を使って捕らえた女性を弄んでいた者の1人だった。
女性達は、先に薬を飲まされていたので、相手の顔を覚えていなかった。
おかげで難を逃れていたが、自分の記憶には全てが残っていた。
そして、この状況になり、殺される恐怖が段々と増していたのだった。
恐怖に耐え切れなくなった男は、回収していた剣を持ち、女性達に襲い掛かった。
「そ、そうだ・・・お前達が・・・お、お前達が、居なくなればいいんだ・・・」
隊長は、震えながら襲い掛かったが、行動に気付いた京太の方が早かった。
女性達と隊長の間に立つと、京太は容赦なく剣を振るった。
隊長は、2つになって床に倒れた。
京太は、俯いた。
――せっかく助かったのにどうして・・・・・
その時、兵士の1人が口を開いた。
「すいません、隊長は、捕らえた女性に薬を使って・・・その・・」
――そうだったのか・・・
京太は、兵士の言葉を遮った。
「わかったからもういいよ」
兵士は、『すいません』と一言いうと、下を向いた。
――降伏した者が、善人とは限らないもんな・・・
京太は、兵士達に問う。
「この中で、捕らえられた者に、罪を働いたと思う者、それを知っている者は、話して欲しい。
そうしないと、また同じことが起きるかもしれないから」
顔に傷のある兵士が、手を上げる。
「おれは、隠し部屋の事も薬の事も知っていた。
それに命令とは言え、薬を飲ませた事もある」
女性達は睨むが、男に後悔の色は無かった。
それよりも、はっきりと話せた事に、憑き物が落ちたような顔をしていた。
――これで良かったんだ・・・
兵士は覚悟を決めて、京太の前に進み出た。
その時、囚われていた1人の女性が、『待った』をかける。
「すいません、お待ちください!」
女性は、顔に傷のある兵士の横まで来ると、膝を付いた。
「お願いがございます、この方を許して頂けないでしょうか?」
突然の行動に、皆が驚いた。
「ミラ、何をしているの!」
「戻って来なさいよ!」
女性達が声を掛けるが、ミラは動こうとはしなかった。
「ごめんなさい・・・でも、この方を見捨てる事は出来ません」
京太はミラに問う。
「訳を聞いてもいいですか?」
「他の兵士の方は、私達の薬が切れかけて暴れても放置していましたが、
この方は、一生懸命、私達の世話をして下さいました。
それに、いつも食事や服を準備してくださっていたのもこの方です。
そんな方を私は、見殺しには出来ません」
兵士は、驚いていた。
「意識があったのか・・・」
聞かれた女性は、笑顔で答える。
「はい、薄っすらとですけど、ありましたよ」
「そうか・・・すまなかった。
私は、戦闘で傷を負ってから、上手く手が動かなくてな・・・それで、出来る事をしていただけだ」
兵士は、そう言って下を向いた。
「それでも、構いません。
私は、貴方を許せます」
兵士は、その言葉を聞き、笑顔になる。
「ありがとう、これで思い残す事は無いよ」
兵士は、覚悟を決めた。
しかし、そこで京太が止めに入った。
「ちょっと待って!
何故、殺す前提で話をしているの?」
「え!?」
「え!?」
2人は、キョトンとした顔で止まった。
京太が、話を続ける。
「僕は、ただ同じ事の無いように、聞いただけだよ。
まぁ、先の事は、確かに内容次第の所はあるけどね」
「では、殺さないのですか?」
「うん、話を聞く限りでは、必要無いと思うけど・・・」
京太は、顔に傷のある兵士に近づく。
「名前を聞いてもいいですか?」
「ゴドーと申します」
「じゃぁゴドーさん、貴方は死ぬほどの覚悟を決めたのでしたら、何でも出来ますよね」
「はい、私に出来る事でしたら」
「では、今後は、彼女達の世話をお願いします。
ただ、女性の手が必要な時は、メイドに頼って下さい」
ゴドーは、再び京太に頭を下げた。
「感謝します」
「でも、下僕みたいなものですよ、本当にいいのですか?」
「はい、罪を償う機会ですから、大切にしたいと思います」
――この人、殺さなくて良かった・・・・・
京太の心は、貴族の話の時よりも少し晴れていた。
その後、囚われていた女性達やメイド達に今後の事を聞いた。
すると、殆んどの者が、帰る場所が無かった。
あったとしても、『戻れば親戚や両親に迷惑がかかるから』と帰る事を拒んだ。
ソニアが尋ねる。
「どうするの?」
「うん、取り敢えず、ここに残って貰うよ」
セリカも話しに参加する。
「大丈夫なのですか?」
「この砦全体に結界を張るから大丈夫だよ」
「また、器用な事で・・・・・」
そんな3人のやり取りを眺めていたラムは、考えていた。
――私も行きたい所はあるけど、急いで無いからこの男に、付いて行こうかしら・・・
ラムは、3人の元に近づく。
「さっきは、ありがとう、お蔭で助かったわ。
私は、ラムよ、当分貴方達に付いて行きたいのだけどいいかしら・・・?」
突然の申し出に、ソニア達は、京太の様子を伺った。
「どうするの?」
「取り敢えず、聞いてみるよ」
京太は、ラムに話し掛ける。
「ラム、だったね、行き先とか決まっていないの?」
「ラムって・・・・・いきなり呼び捨てか・・・。
まぁいい、私にも行きたい場所はあるわ、でも、急ぎではないので同行してもいいかしら」
困ったら、クラウスに任せようと思い、ラムの同行を許した。
「わかった、同行を認めるよ」
「そうか、感謝する。
それで、これからどうするのだ」
「予定通りにサバクの街に行くよ。
でも、僕達以外は、ここに残って貰うよ、行く宛も無いのに放り出す訳にも行かないし
連れて行こうにも街の状況も分からないからね」
このアジトには、食料も多く、水も畑もあったので生活に困る事は無かった。
京太は、メイド達を集めて、説明をした。
「これから街に行って来る。
その間は、此処を任せてもいいかな」
メイド長の【スミス】は、前に出て、一礼をする。
「お任せください、留守は、しっかりお守りします」
「いや、アジトを囲むように結界を張って行くから、外に出さえしなければ大丈夫だよ」
「それでしたら何をすれば、良いのでしょうか?」
「皆が、住みやすいように部屋を決めたり、仕事を決めてここでの生活を充実したものにして欲しい」
すると、スミスの後ろから小声だが話し声が聞こえて来た。
「それって私達も個室が貰えるのかなぁ」
スミスが咳ばらいをする。
「コホンッ!」
その声に気付き、話をしていた2人は、小声で謝罪をした。
「すいませんでした・・・」
「あははは・・・気にしなくていいよ、それと皆には、個室を与えたいと思ってる。
スミス、お願い出来るかな」
「主様のご命令とあれば・・・・・」
「ありがとう」
――ところで、僕は、いつから主になったんだろう・・・
「それから、私事ですが、チユリ、エイミー、後でお話があります」
スミスの言葉に、2人は固まった。
「・・・・・はい」
「後は任せるよ、行って来る」
京太、ソニア、セリカ、クオン、サリー、ノルンに
エルフのラムと砦でメイドをしていたモニカが加わった8名でサバクの街に向かった。
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