亜人連邦 裏切りの発覚
2人の竜魔人を倒した後、京太は、セルゲイに回復魔法をかけて傷を治した。
「京太殿、助かりました、感謝致します」
「気にしないで下さい、それよりも、まだ敵はいますよ」
「ああ、そうだな」
セルゲイは、京太達と共に、地竜退治に向かう。
しかし、京太の仲間達が、殆どの地竜を退治していたので、数も少なくなっていた。
京太は、地竜退治を他の者達に任せ、倒した地竜をアイテムボックスに収納してまわった。
全ての地竜を退治した後、生き残りがいない事を確認すると、兵士を引き連れて竜人族の里に戻った。
里に戻ると、先触れが出ていた為、既に竜魔人討伐が伝わっており、盛大に迎えられた。
京太達は、途中で隊列から外れ、宿に戻る事にした。
セルゲイは、盛大に迎えられた兵達に休憩を取らせると、アーチボルトの屋敷に向かう。
屋敷に到着すると、すぐに案内され族長達の前に立たされる。
セルゲイは膝を付き、報告を始めた。
「この度、3体の竜魔人の討伐に成功致しました。
ただし、4人の英雄の命を失った事を報告いたします」
報告を受けた族長達は、肩を落とす。
――亡くなったか・・・・・・
3体の竜魔人を倒せた事は嬉しいが、
まだ、4体の竜魔人が残っている状態で、4人の英雄が亡くなった事はショックだった。
アーチボルトは、セルゲイに礼を述べる。
「3体の竜魔人の討伐、感謝する。
この先、まだ厳しい戦いが残っているが、どうか力を貸してほしい」
「英雄として、恥ずかしくない戦いを、お見せ致します」
セルゲイは一礼をし、部屋を出た。
セルゲイ退出後、族長達は、今回の報告と今後の対応について会議を始めた。
最初の議題は、諜報部が持ち帰った今回の討伐の報告だった。
「では、報告を頼む」
「はっ、竜魔人討伐に関してですが・・・・・・」
諜報部の説明は、竜魔人を倒したのは、3体の内、1体がセルゲイとドムで
残りの2体は、京太とその仲間の女性だという事。
そして、地竜討伐に関しても、殆んどを京太の仲間が倒した事が報告された。
「それ程、彼らは強いのか?」
「はい、私から見ても、桁違いの強さでした」
族長達の視線が、ジョゼに集中する。
「ジョゼ殿、彼らとはどういう関係なのだ?」
「里のエルフの旦那です」
「えっ?」
「強いて言うなら、親戚とでも申し上げましょう。
この度の件を聞いた時に、里に来ていたので助力を願いました」
「それだけで、亜人に手を貸したのか?」
「はい、彼は、そういう事は一切気にしない方ですから」
族長達は、次回の討伐の時に、軍に加わって貰えないかとジョゼに聞く。
「皆さんは、人族は信用しないと言い、彼らに同行を許さなかった事を忘れられたのですか?
それに、街も歩くなと言いましたよね」
「それは・・・・・・」
族長達は、お互いの顔を見合わせる。
「あの時は失礼な事をした、改めて謝罪をさせてくれないか?」
アーチボルトの発言に、ジョセは、『聞いてみる』とだけ返事をした。
宿に戻ったジョゼは、京太の部屋に向かった。
しかし、京太の姿は無く、仕方なく店主に聞くと、入浴中だと伝えられた。
「この宿に、風呂などありましたか?」
「いえ、京太様が、裏庭に作られたのです」
――本当に、何を考えていらっしゃるのだ・・・・・・
ジョゼは、裏庭に向かおうとしたが、店主に止められる。
「お待ちください、今はお止めになった方が良いと思います」
「何かあるのですか?」
「いえ、京太様が、奥様達と入浴中ですので・・・・・」
「・・・・・・そうですか、わかりました」
ジョゼは、京太達が風呂から出るまで待つ事にした。
風呂から上がって来た京太を捕まえると、会議での話を伝えた。
「そうですか、どのみち竜魔人は倒すつもりですから、構いませんが、
前にも言った通り、兵の中に組み込まれるのは、遠慮させてくれると有難いです」
「分かりました、2日後の会議の時に私も同行しますので、その時に伝えましょう」
会議の日、京太は、ジョゼを同行させて、アーチボルトの屋敷に向かう。
屋敷に着くと、会議室に案内された。
既に族長達は揃っていて、京太を待っていた。
アーチボルトが代表して声を掛ける。
「京太殿、忙しい所を申し訳ない」
「いえ、構いませんよ」
「取り敢えず、席に座って頂けるかな」
京太が席に座ると、会議が始まった。
議題は、2日後に予定している竜魔人討伐の件だった。
「今回は、京太殿にも正式に参加して欲しいのだ」
会議が始まり、アーチボルトの第一声が、その言葉だった。
しかし、ジョゼが、アーチボルトを睨む。
その視線に気付いたが、アーチボルトは無視して話を続けた。
「それで、竜魔人の討伐を・・・・・」
そこまで言うと、ジョゼが割り込む。
「アーチボルト殿、貴方はエルフを馬鹿にしているのか!
京太殿は、我等エルフの同朋としてこの場所に来てくれているのだ、
それなのに、街に出るなとか、軍に同行するなと言っておいて謝罪の1つも無いのですか!」
会議室に響き渡ったその声に、誰も返事をせず、俯いたままだった。
静まり返った会議室の中、ジョゼは立ち上がる。
「わかりました、それが貴方達の答えなのですね、それならこちらは自由にさせて貰います」
ジョゼは、京太を連れて会議室を出ようと歩き出した。
その様子に1人の族長は、下を向いたまま密かに笑う。
だが、誰もその事に気付かなかった。
「待ってくれ!」
声をかけたのは、アーチボルトだった。
「今までの事は謝罪しよう。
本当に申し訳なかった」
「あ、いえ、気にしないで下さい」
「それから、街も自由に行動してくれて構わないので、
どうか今度の討伐にも参加してくれないか?」
アーチボルトの頼みを聞き入れようとしたが、1人の族長が反対を表明した。
「これは、亜人連邦の問題だ!
これ以上他部族の手を借りれば、何の為の連邦か分からなくなるぞ!」
「しかし、【マッシュ】よ、4人の英雄を失った今、我等にそれ程の戦力は残っていないのだ」
アーチボルトは、現状を説明して、リザード族の族長マッシュに同意を求めた。
しかし、マッシュの意見は変わらなかった。
「そんな事は、どうでもいい、次の戦いは、亜人連邦だけで行うのだ!
エルフ族には帰って貰えば良い」
マッシュは、焦っていた。
報告にあったように京太とその仲間は、1人で竜魔人を倒した。
次回も同じ様に倒されたら、マッシュの計画が崩れてしまう。
なので、京太達の参加を認める訳にはいかなかった。
そんなマッシュの様子に、族長達の中にも疑問持つ者が現れ始める。
その中の1人、白狼族の族長【セドリック】は、意見を変えないマッシュに質問をする。
「何故、そこまで京太殿の参加を認めないのだ、何か理由でもあるのか?」
「そ、そんなものはない!」
慌てふためくマッシュに、周囲の者達の視線が集まる。
「お主、何か隠しているのでないか?」
ドワーフの族長【ディクソン】も、マッシュの態度に疑問を持った。
「マッシュ、どうなのだ!」
次々に質問をぶつけられるマッシュは、強引な手段に出る。
万が一の為に、待機させていた兵士に合図を送った。
会議室に雪崩れ込んで来た兵士達は、剣を抜き、族長達を脅しにかかる。
「この屋敷は、私達が占拠した。
ここで大人しくしていてもらおうか」
兵士の宣言が終わると、マッシュが立ち上がる。
「そういう事です、皆さん、大人しくして貰いましょうか」
アーチボルトは、笑みを浮かべるマッシュを問いただした。
「これは、何のつもりだ!」
「復讐ですよ」
「復讐だと・・・・・?」
疑問を浮かべるアーチボルトと周囲の態度から、マッシュは溜息を吐いた。
「やはり、貴方達に自覚は無かったのですね」
「どういう事なのか、説明をして貰えないか?」
「説明するのも馬鹿馬鹿しいが、貴方達が分かっていないようですから教えましょう」
マッシュは、今迄のリザード族に対しての言動や下位部族の様な扱いに対して話し始める。
「私達リザード族は、亜人連邦の為と思い、
他部族の貴方達に押し付けられた仕事も我慢して受けて来ました。
しかし、それは、何年経っても治らないばかりか、日を追う毎に酷くなって・・・・・・」
マッシュは、『グッ』と拳を握りしめる。
「ご存知でしたか、私達、湿地で生きるリザード族にとって、砂漠の調査がどれだけ過酷かという事を。
それに、私達が行った調査に不満があると、影で出来損ないのトカゲと罵っていた事も知っています」
マッシュは、その他にも、今までされて来た事を次々に述べた。
最後に、今回の事件を起こすきっかけとなった話題に触れる。
「他にも色々ありましたが、最後に、食糧難に備える為の資金を拠出する事について
話しましょうか?」
「いや、もうよい・・・・・」
アーチボルトは、マッシュの発言を止めた。
「何故、止めるのですか?」
「貴様の言いたい事は、分かったからだ」
「では、認めるのですね」
少し間が空いた後、アーチボルトは答える。
「確かに、リザード族に任せすぎていたのかも知れんが、
この度の事は、やり過ぎだと思わないのか?」
「見解の相違ですかね、私は、やり過ぎだとは思いませんよ」
アーチボルトは、机を叩き、怒鳴る。
「こんな事をしたら亜人連邦は、終ってしまうのだぞ!」
「まだ、分かりませんか、私は亜人連邦を消滅させようとしているのですよ」
その言葉に、族長達は思わず立ち上がった。
100話まで続けることが出来ました。
今後も宜しくお願い致します。




