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シャルロットの涙

 シャルロットは震える声を絞り出した。


「ナディア。貴女がそんな事を考えていたなんて知らなかったわ。ごめんね」

「謝って欲しいんじゃないわ。泣いて喚いて惨めな姿を晒しなさいよ!」


 何も言わず、静かに首を横に振ったシャルロットを見て、ナディアは激昂した。


「そういうところが大っ嫌いなのよ! そうだ。いいことを教えてあげるわ。貴女のお母様の遺品、ドレスや指輪やネックレス沢山あったけれど、もうこの家には無いのよ?」

「え? どういうこと?」

「私のお母様は、流行りものに敏感なの。あんたの母親の古臭いドレスや指輪は肌に合わないのよ。全部、売ってしまったわ」

「そ、そんな……」


 ナディアの話が本当ならば、シャルロットが所持する母の形見は、いつも身に付けているペンダントひとつだけになってしまう。他の物も、嫁ぎ先に持っていこうと思っていたのに。  

 耐え難い喪失感に、シャルロットは胸を押さえ廊下に崩れ落ちた。


「ふん。いい気味だわ。やっといい顔になったじゃない。貴族に生まれたってだけで、苦労も知らずに育って……。これからは私がその立場にいくの。伯爵夫人、いい響きだわ。こんな良縁を繋いでくれてありがとう。お義姉様。――いいえ。シャルロット?」


 ナディアは言い切ると満足そうに踵を返し廊下を歩きだした。しかし、すぐに立ち止まり振り返る。


「大切なことをいい忘れていたわ。魔法使い、追い出す前にお母様に会わせるのよ? 忘れないでね、シャルロット。フフフッ」


 ナディアは足取り軽やかに去っていった。

 その姿が見えなくなると、シャルロットはその場で泣き崩れた。


「酷い……」


 ナディアの本性を知り、シャルロットは悲しくて涙が止まらなかった。婚約者を奪われたことも、母の形見を失ったことも、ナディアの憎らしい笑顔と重なり、胸が苦しくて震えが止まらなかった。


 廊下で涙するシャルロットの背中を見て、セオはにゃん子サマに尋ねた。


「女の人が泣いている時はどうしたらいいんだ?」

「優しく抱きしめて、背中を擦るのじゃ」


 セオは言われた通りシャルロットを抱き寄せ背中を擦った。

 シャルロットは肩を竦めて身を強張らせ、震えて泣き続けていた。


 今度は心の中で、セオは尋ねた。


『にゃん子サマ。泣き止まない時はどうしたらいい?』

『俺がそばにいるぜ。泣きたいだけ泣けよ。ってキザっぽく言うのじゃ』

『え。それ真面目に言ってる?』

『真面目じゃ』


 セオは少し考えた後、言われた通りシャルロットの耳元で囁いた。


「シャル。俺がそばにいるから、泣きたいだけ泣けよ」

「ぅ……ぅ……ぅわぁぁぁぁん……」


 シャルはセオの胸で子供のように泣きじゃくった。

 まさかこんなに盛大に泣き始めるとは思っていなかったセオは、驚いてにゃん子サマに目を向けた。


「それでいいのじゃ」


 にゃん子サマはこくりと頷くと、二人の周りをひと歩きし、シャルの足元へ慰めるようにすり寄っていった。

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