表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/84

ナディアの本心

「ごちそうさま。あー。生き返ったぁ。──そうだ。お礼がしたいな。シャル、何かして欲しいことはあるか?」

「お礼はもう、にゃん子サマにいただいたわ。それに、とても美味しそうに食べてくれたから、それで十分よ」


 そして、こんなイケメンを拝めただけでも幸せです。

 と心の中で呟いた。


「セオ。シャルの義理の母親がな、セオから巻き上げられるだけ金を巻き上げろと申していたぞ?」

「にゃん子サマ。それは……」

「へぇ~。随分といい性格したお義母様だな」

「そうね。本当に……」


 シャルが視線を落とすと、セオはシャルの顔を覗き込んできた。


「大丈夫か?」

「ええ。平気よ。私はこの家から出て行くって決めたのだから」


 シャルは立ち上がり食器を片付けると、厨房の扉に人影がみえた。

 妹のナディアがひょっこりと顔を出していたのだ。


「まぁ。本当に人なんか拾ってきたのね。さすが、お義姉様だわ。……あの。ちょっといいかしら?」

「ナディア……」


 ◇◇


 厨房前の廊下に出ると、ナディアはシャルロットに頭を下げた。


「お義姉様。ごめんなさい。私……婚約の事、何も知らなかったの……」


 ナディアはポロポロと涙を流してシャルロットに謝罪した。

 この子はいつも義母の言いなりなだけで、根は悪い子ではない。決していい子だと思ったこともないが、謝られることは初めてだった。


「いいのよ。ナディアが謝ることではないわ」

「本当に……許してくれるの?」

「ええ。私の事は気にしないで」


 シャルロットは笑顔でナディアを励ました。

 しかし、ナディアはシャルロットの笑顔を見ると、急に表情をなくした。そして眉間に深くシワを刻み、舌打ちした。


「あーぁ。やっとあんたの泣き顔でも見られると思ったのに。本当に馬鹿みたいにお人好しなのね」

「えっ……?」


 ナディアの可愛らしい唇から、想像もしなかった言葉が飛び出した。義母とそっくりの、人を見下した笑顔でナディアは更に言葉を続けた。


「ねぇ。状況、分かってる? あんたの婚約者、取られちゃったんだよ? これからも、今までと変わらずに、ずぅーっとこの家で奴隷みたいに働かされるんだよ?」

「な、ナディア?」

「私のこと。お義父様みたいに何も考えられないお嬢様だと思ってたでしょ? そんな事ないのよ。私は三年前、この家に来た時から、ずっと今日という日を楽しみにしていたの。お人好しのお義姉様の婚約者を奪って、私が伯爵夫人になる日をね!」


 ナディアはただ、義母の言いなりになっているだけだと思っていた。

 しかし違った。

 義母と同じ、もしくはそれ以上の策略家だったのだ。


 シャルロットは頭では分かっていても、ナディアの本性をすぐに受け入れることは出来なかった。


「う、嘘よね……」

「嘘じゃないわよ。あんたが邪魔しないように、今日まで良い娘を演じてきたんだから。可愛い妹が幸せになれるなら、お義姉様は喜んで婚約者を譲ってくれるでしょう?」

「どうして今、そんな事を打ち明けたの? 可愛い義妹のままだったら、私……」

「フフフッ。可愛い義妹のままだったら、祝福してくれた? 私、そういうの嬉しくないのよね。それよりもさ。あんたの泣いて悔しがる顔が見たかったの。ねぇ。辛い? 悔しい?」


 ナディアの意地の悪い笑顔を前に、シャルロットは奥歯をグッと噛み締めた。

 こんな子の前で泣いちゃ駄目だ。

 溢れ出しそうな涙をシャルロットはじっと堪えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ