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赤髪の魔法使い

「そろそろ起きるのじゃ!?」


 テーブルの上でにゃん子サマはくるりと回転し、細く柔らかい尻尾で魔法使いの後頭部を弾いた。


 すると目深に被っていた黒いフードがずれ落ち、魔法使いの真っ赤な髪が露になった。猫の様に細くて柔らかそうな赤髪は、襟足だけ少し長くて綺麗に整えられていた。


 そしてその魔法使いは、シャルロットが想像していたより紳士的で落ち着いた品のある顔立ちをしていた。

 元婚約者と比べるのは失礼な程の顔立ちの良さだ。

 完全にシャルロットのタイプである。

 年はシャルロットと同じくらいか少し上だろうか。

 実にいい目の保養対象だ。


 シャルロットは面食いである。

 実父とシャルロットの唯一の共通点。

 それはお互い面食いであるということだった。


「痛っ……。にゃん子サマ。痛いよ」


 後頭部を擦りながら、魔法使いはにゃん子サマに澄んだテノールボイスで文句を言った。

 声もいい。

 しかし、彼もにゃん子サマと呼んでいるとはちょっと驚いた。

 青年はシャルロットに気が付くと、軽く頭を下げ挨拶をしてくれた。優しそうな少しタレ目の青年は、瞳に薄っすらと光を帯び、不思議な色合いをしている。

 

 シャルロットがボーッと魔法使いに見とれていると、にゃん子サマに声をかけられた。


「娘よ。食事をいただけるかのぉ?」

「は、はい」


 シャルロットは急いで青年に食事を差し出した。

 彼は金色の瞳を丸くして驚くと、シャルロットと食事を交互に見つめていた。


「あの、ぶつかってしまったお詫びです。遠慮せずに召し上がってください」

「あ、ありがと。俺はセオドリック=シルヴェスト。君は?」

「私は、シャルロット=ア……。シャルロットです」

「じゃあ、シャルだね。俺はセオでいいよ。 本当にいただいていいの?」

「勿論です。どうぞ」

「じゃあ……」


 セオはにゃん子サマに向かって口を大きく開いた。

 にゃん子サマはそれを見ると溜め息をつき、セオの頬っぺたにネコパンチした。


「いったぁ!?」

「それぐらい自分で食べるのじゃ! にゃん子サマはそんな事してやらんぞ!?」

「ええー。じゃぁ……」


 セオは捨てられた猫のような瞳でシャルを見た。

 これは、食べさせて欲しいのかな?

 もしかしてこの人、すごいお金持ちのご子息なのかな。


「だから、自分で食べるのじゃ! そうじゃないと飢え死ぬのじゃ。いい加減気付くのじゃ!」

「分かったよ……えっと。スプーンはこうやって持つんだよな……」


 ぎこちなくスプーンを握り、セオはスープを食べ始めた。シャルロットが不思議そうに眺めていると、にゃん子サマが教えてくれた。


「セオはいつもパンケーキしか食べないのじゃ。見苦しくてすまんのぉ」

「いえ。でも、それだと栄養が偏りませんか?」

「パンケーキに野菜とか色々入れて焼いてもらってたんだよ。食べるの面倒だから。あのさ、ここは食堂?」

「いえ。私の家です。食堂に行く途中で、私とぶつかってしまったので」

「ああー。何となく思い出して来た。そっか。食堂じゃないのか……でも、このスープ。すごく美味しいな」

「本当に? 私が作ったのよ」

「へぇ。どっかのご令嬢かと思ったけど、料理が出来るなんて、シャルは凄いな」

「あ、ありがとう」


 セオの笑顔に、シャルは恥ずかしくなって顔を俯かせた。

 料理を褒められることも初めてだったし、お礼を言われることも初めてだった。

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