罪
ヴィリアムは冷たい視線を皆に向け、小声で呟いた。
「人の価値を計れるほど、こいつらが価値のある存在には見えないな……」
まさかの王子の登場に皆が騒然とする中、ソルボン伯爵がヴィリアムに尋ねた。
「ヴィリアム王子様。何故このような場所にいらっしゃるのですか?」
「爵位の引き継ぎに関して疑惑があって訪ねた。現アフリア子爵の実子はシャルのみ。それなのに何故、シャルを嫁がせるのだ? アフリア子爵」
「ルシアンは、私と後妻ペトラの子なのです。ですから、爵位はルシアンに引き継ぎます」
「ほう。アフリア領の記録では後妻を娶った後に産まれた子とされているが、調べたところ、ルシアンはその一年半も前に産まれた子だと分かった。ルシアンを取り上げた産婆にも確認したのだがな」
口ごもるシャルの父に代わり、義母が声を上げた。
「それは産婆の勘違いですわ。ルシアンは主人との子ですわ」
「王族に嘘をつくと罪に問われるのは知っているか?」
「ヴィリアム王子っ!? 爵位はシャルが継ぐ予定です。ですから、ソルボン家に嫁にやる話をナディアに譲ったのです」
「そうだったのか。しかしアフリア伯爵は、先程申したではないか。ルシアンに継がせる。と」
「そ、それは……」
「どちらが事実なのだ? しかし、どちらと答えようとも、王族を欺いた罪は免れぬ」
「そ、そんなっ」
「アフリア伯爵の爵位を剥奪する。しかしこの罪はアフリア伯爵とそこの夫人だけが被れば良い。よって、唯一の血縁者であるシャルロットに爵位を授けよう」
震え青ざめたシャルの父にヴィリアムは冷たく言い放ち、シャルへと向き直った。
「シャル。妹と弟は不問に処す。君がどうするか決めるんだ。家族という名の御主人様方に、使用人のように扱われてきたのだろう? 君が思う家族だけ、この家に残せばいい」
「な、何を仰っているのかしら!? 私達はシャルの家族で、使用人の様に扱ってなんていないわ。シャルも王子に嘘をついているわ! その子も罰して──」
「だまれ。誰に物を言っているのだ? 戯れ言は聞き飽きた。それにお前達のような自らの欲にまみれた薄汚い輩に、シャルの名を口にして欲しくはない」
ヴィリアムは義母の言葉を一蹴し黙らせると、それを聞いていたアシルが胸を押さえながら涙を溜め、シャルに向かって叫んだ。
「シャル! 君はとても苦労をしてきたのだね。でも安心したまえ。僕が君を幸せにするよ。君のためなら僕が婿になってもいい。──さぁ。僕の元へおいで!!」
両手を広げてシャルに歩み寄るアシルに、シャルもヴィリアムも顔を引きつらせた。ヴィリアムは、空気の読めない男が大嫌いだ。
アシルが来る前に、ヴィリアムはシャルの肩に手を添えると、グッと抱き寄せた。
「それから、シャルは私の婚約者になる」
「ええっ!?」
驚くシャルをヴィリアムは見つめ、その頬に口づけをするフリをして耳元で囁いた。
『話を合わせてくれ……』
シャルは小さく頷くことしか出来なかった。
理想の顔面が近すぎて心臓が飛び出してしまいそうだったのだ。
アシルは両手を広げたままショックで硬直している。
「ソルボン伯爵。そう言うことなのだが、何か言いたいことはあるか?」
ヴィリアムに睨まれると、アシルもソルボン伯爵も押し黙ってしまった。
「セオドリック。君の店でもシャルは働かせられない。契約は書類通りに解約してくれ」
「ああ。契約不履行により、アフリア子爵に支払いの義務が生じた。違約金は一週間以内に払ってください」
セオの容赦ない言葉に、シャルの父も義母も真っ青になった。




