セオとアネット
ダイニングテーブルの上に、カップが四つ並べられた。
お茶を入れたのはシャルである。
「ありがとう。シャルロットちゃん。ほら、セオもいただいたら?」
アネットはソファーで寛ぎながら笑顔でシャルに礼を言うと、セオを睨みながら冷たく言った。
「こんなんで飲めるわけないだろ」
セオは体をよじり、椅子をガタガタといわせている。
セオとヴィリアムは、スライムで椅子に磔にされていた。
しかも、椅子は天井から吊るされ逆さまの状態だ。
因みに、ヴィリアムはまだ気絶したままだ。
「それもそうね。でも仕方ないでしょ? 野蛮な男達に私の家を触られたくないもの。ふふふっ。いい様だわ! ね、シャルロットちゃん!」
「えっ!? セオとヴィリアム王子は野蛮なんかじゃないですよ」
「えー。そう? 人の箱庭を火の海にしたのに? あ、そうだ、セオ。パメラさんが亡くなったって聞いたのだけれど。──どうして連絡してくれなかったの?」
「……急だったんだ。朝起きたらベッドで寝てて。そのまま起きなかった。寿命だって、にゃん子サマが言ってた」
悲痛な顔でそう語ったセオに、シャルは心を痛めた。
アネットは、わん子サマをモフりながら俯き、しばらく黙り込んだ後、ようやく深いため息と共に口を開いた。
「そう。……連絡ぐらいしなさいよ」
「お前と連絡なんか取れないだろ」
「ふーん。酷いなー。それにお前お前って……何よその呼び方!」
「お前とは何年も前に縁を切ったんだ。お前としか言いようがないだろ!?」
「なんですって!?」
次第にヒートアップしていく二人に、シャルは意を決して口を挟んだ。
「あ、あの!? もしかして……なんですけど。──二人はご夫婦だったんですか!?」
シャルの言葉に、セオとアネットは驚愕の表情で固まった。
そして二人で睨み合ったかと思うと、アネットは急に笑いだした。
「あっはははっ。こんなのを好きになるわけないでしょ? やだぁ~。冗談よしてよ」
「そうだよ。シャル。こいつは……俺の元、姉だ。縁は切ったからもう姉じゃないけどなっ」
「へっ?」
二人の顔をよく見比べると、確かにそっくりだった。違うのは目の色くらいだ。
「私だって、もうセオの事なんか弟だって思わないんだから。なんかムカついてきた。さっさと出てってよ!」
「ああ。こんな所……って、駄目だ。アリス姫の呪いについて聞きたいことがあるんだ」
「はあ? 私、関係ないし」
「やっぱりな……。そうじゃないかと思ってた」
「セオ……」
セオはアネットが呪いの犯人ではないと分かっていたのだ。
アネットはセオが自分を信じてくれていたと知り、嬉しくて頬を赤く染める。
しかし、そんなアネットをセオは冷めた目で見据えていた。
「他に誰がいる? 災厄の箱に干渉できる奴。心当たりないか?」
「……あるわよ。ちょっと考えれば分かるんじゃないかしら?」
アネットはそう言うとヴィリアムを見つめた。
セオは呆れたように首を横に振る。
「ヴィルにはそこまでの魔力はない。光の巫女の封印を解くほどの力を持った王族は、城では見当たらなかったんだ……」
セオが眉間にシワを寄せて思考を巡らす中、アネットは尋ねた。
「いるでしょ? にゃん子サマが見える王子よりも、魔力が強い王族が……」




