王子とシャル
シャルが食事を用意し、三人で焚き火を囲んで夕食を食べた。料理上手なシャルに、ヴィリアムは本当に子爵令嬢なのか尋ねるほどだった。
そして、セオは疲れていたのか、食べてすぐに寝てしまった。眠そうな顔のセオは、子供版のセオそのままで可愛らしく、ヴィリアムはセオが本当は子どもなのではないかと疑っていた。
近くの川で鍋を洗い片付けを済ましテントへ戻ると、ヴィリアムはまだ寝ずに、一人鋭い目つきで焚き火を眺めていた。
ちょっと話しかけづらい。
しかし、このまま先に休むのも申し訳ない。
シャルは勇気を出して話しかけた。
「あの。お休みになられないのですか?」
「ああ。野生の獣がいるかもしれないしな」
「あ、テントに獣避けの香をつけてます。それに、ここは魔女の領域だから、大きな獣はいないとのことです。でも、リスはいるそうですよ?」
セオが言っていたのだ。
この森にいる最大サイズの獣はリスだって。
「リス?」
「魔女が好きなんだそうです」
「ほぅ。セオドリックが言っていたのか?」
「はい」
「彼は魔女に詳しいな。どの様な関係なのだろうな」
「そう言えばそうですね。仲が悪いそうなので、ライバルみたいな相手なのかなって思ってました」
「なるほどな……」
そう呟き、ヴィリアムはまた焚き火を見つめた。
エメラルドの瞳には橙色の炎が映り込み、不安げに揺らいで見えた。
「明日こそ、霧が晴れます様に……」
シャルは手を重ねて祈りを捧げると、ヴィリアムも一緒に瞳を閉じた。
「そうなるといいな。そうだ。今朝の話で気になったことがあるのだが……。シャルロット、子爵家は誰が継ぐのだ?」
「私にはまだ幼いですが弟がいますので」
「それは……」
「義母と一緒に一歳の頃から私の弟になったんです」
「……そうか。弟は今いくつだ?」
「今年で六歳です。屋敷に来てから、私がずっと世話してきたんです。とても良い子なんですよ」
「そうだとしても……。もしや、料理が得意なのは弟の世話を任されていたからか?」
「いえ。ルシアンは手がからない子なんです。義妹や義母の方が……」
「そうか。そちらの世話の方が手を焼いたのだな。使用人のように扱われていたのか」
呆れを通り越して、ヴィリアムの瞳には哀れみと怒りの色が滲んでいた。シャルは気まずくて返答に戸惑った。
「まあいい。因みに、君は誰に嫁ぐ予定だったのだ?」
「ソルボン伯爵家のアシル様です」
「ほぅ。中々の名家だ。それに次期当主ではないか。しかし……こう言っては失礼だが。アフリア家とは不釣り合いだな」
ソルボン家は王都近くの広大な土地を持つ伯爵家。
かたやシャルは田舎子爵だ。
釣り合わないことをシャルも知っていた。
「そうですよね。アフリア家には何も無いですから」
「何も無いか。そうだな。しかし、アフリア領の立地に目を付けたのかもしれないな。ここ数年で、アフリア領側の隣国が急成長していてな。そのせいかもな」
「ソルボン家にも利点があったのですね」
「随分と他人事だな。アフリア子爵家がなくなっても良いのか? 血も繋がらぬ他人に継がせるか、別の貴族に吸収されるか。どちらの危機も迫っているように感じるのだが」
ヴィリアムの怒りを帯びた冷たい視線に、シャルは自身の無責任さに気付かされた。
「そうかもしれません。ですが、もう家族とは離れて、家に戻るつもりはないんです。あの場所は大好きでした。母と過ごした幼き日々を想うと寂しいですし、弟のことは心配ですが……」
「君は幾つだ?」
「十七です」
「そうか。成人済みならば、君にアフリア子爵の爵位を継がせよう。君が継げばもう使用人のようには扱われまい。義母など邪魔なら追い出してしまえ。弟の為にも、想い出の場所を失わない為にも、それか最善だ。私が手配しておく」
ヴィリアムはそれが一番だと納得したように頷き、そして同意を求めるようにシャルに目を向けた。




