馬に乗って……
ヴィリアムに手を借り、シャルは馬にのせてもらった。
ヴィリアムはただでさえシャルをお荷物だと思っているのに、シャルは本当に積み荷と同じようになってしまった。
シャルは恐る恐る、前に座るヴィリアムの腰に手を添えた。
「シャルロット。遠慮せずにしっかり掴まりなさい」
「はいっ!」
しかし、遠慮するに決まってるではないか。
ヴィリアムの背中からは高貴なオーラが出ている。
触れていいのか悩ましい。
いや。触れちゃいけない気がする。
窮屈でも、セオの馬にすれば良かったと後悔した。
シャルが緊張で全身を強ばらせていることなど関係なく、セオの馬を先頭に森を順調に進んで行く。
木漏れ日に照らされ、風になびくヴィリアムの金髪を眺め、シャルはベッドで眠るアリスを思い出していた。アリスにも美しい金髪を取り戻してあげたいと……。そんな事を考えていると、ヴィリアムに急に話しかけられた。
「シャルロットは魔法使いなのか?」
ヴィリアムは、セオがお手伝いさんの面接をするときのような機械的な物言いで尋ねた。まるで採用試験が始まったかのような雰囲気で、シャルは緊張しながら答えた。
「いっ、いえ。私はセオの家で食事の支度や掃除の手伝いをしています」
「そうなのか? シャルロットはアリスの呪いが見えたのだろう?」
「はい……」
「それに、あの白猫の姿をした精霊も見えるのだろう? 何故なんだ?」
「はい。ですが、どうして見えるのかと聞かれても、分からないんです。セオの所でお手伝いを始めてから、まだ三週間ぐらいなので、まだまだ知らないことばかりで……」
「そうか。てっきり、魔法使いの名家の出かと思っていたよ」
シャルが魔法使いの名家? ヴィリアムは、意外とシャルを認めてくれているのかもしれない。
「いえいえ。私は田舎の子爵家の生まれですよ」
「ほぅ。姓は?」
「あ、アフリアです」
きっと知らないだろうと思いつつシャルは答えた。
しかし、意外な反応が帰って来た。
「おお。随分と遠いところで育ったのだな。あそこは長閑で良いところだ」
「あ、ありがとうございます」
さすがヴィリアム王子。
国の端っこの辺鄙な街まで知りつくしているのだ。
「しかし、なぜ子爵令嬢が食事や掃除の手伝いをしているのだ? 魔法の修行でもないのならば理由が分からぬ」
ヴィリアムは呆れ、そして探るような声でシャルに尋ねた。
このままではヴィリアムに不審がられてしまう。
「えっと……色々ありまして……」
「出来れば聞かせておくれ。ともに行動するものの人となりは知っておきたいんだ」
「はい……」
シャルは結婚を控えていたが、見た目で病弱だと思われ、代わりに義妹が結婚することになったこと、そして義母との折り合いが悪く家を出ようとしていた時にセオに助けてもらったことを話した。
「成る程。義理の母か……」
ヴィリアムは王妃の顔を思い浮かべたのだろう。
深いため息をついた。
「私、おこがましいとは思いますが、アリス姫と自分を少し重ねてしまったのです。少しだけ、境遇が似ているなって……」
「そうだな。アリスを助け王妃を罰したら、次はシャルロットの義母について考えよう」
「へ?」
「そんな処遇を受けて、不満だらけだろう?」
「私は大丈夫です。セオの手伝いで満足してますから」
「そうか……。互いに有益な取引が成立するのであれば、信頼できるのだがな。――ん? そろそろ目的地か?」
先を行くセオが馬を止め、生い茂る木々を見上げていた。
「あそこが魔女の領域ですかね?」
「どうだろうな。……こんなことに巻き込んですまないが、魔女は男嫌いとのことだ。シャルロットの力が必要になるかもしれない。よろしく頼むよ」
「はい。ヴィリアム王子」
シャルは、緊張した面持ちのヴィリアムに力強く返事をした。




