拾いもの
シャルロットは、心を無にして言葉を紡いだ。
「興を削ぐような事をしてしまい、申し訳ございません。──アシル様、ナディア。ひと月後の結婚式、お慶び申し上げます。お二人の幸せを願っておりますわ。……失礼致しました」
シャルロットは深々と頭を下げ、扉をゆっくりと閉めた。
義母の笑みが、ナディアの幸せそうな顔が、頭から離れなかった。
ドレスの裾を掴み上げると、シャルロットは屋敷の門へ向け全速力で走った。
こんな家、出て行ってやる。
ずっと耐えてきたけれど、もう我慢の限界だ。
結婚できないなら。この家から出られないなら。
自分の足で出ていくしかない!
そうだ。教会へ行ってシスターになろう。
それがいい。貧乏子爵令嬢なんかより、好きでもない金持ちと結婚するより、何倍も良いに決まっている。
シャルロットは庭を駆け抜け、屋敷の門を開き外へと飛び出した。
二度と、この屋敷には帰らない。
そう心に決めて足を踏み出し──。
「うぉぅっ!」「きゃぁぁぁ!?」
知らない男の人とぶつかり、軽々と吹っ飛ばしてしまった。
シャルロットよりも大きなその人は、道の端まで勢いよく地面を転がっていった。
「え……えー」
驚きで涙も引っ込み、シャルロットは慌ててその人に駆け寄った。
「だ、大丈夫ですか?」
服装からして魔法使いだろうか。
その人はフード付きの黒いローブを着ていた。
フードから見える髪は、林檎のように赤い。
そして、うつ伏せのままピクリとも動かなかった。
これは……不味い。
シャルロットが手を伸ばそうとすると、横たわる男性から声が聞こえた。
「ほぉ~。派手に殺られたのぉ。セオ、生きておるかぁ?」
それは、可愛らしい少女の様な声だった。
声は若いが話し方は老人のよう。
不思議と頭に響くその声の主は、倒れた赤髪の人の懐からモゾモゾと現れた。
それは――白い毛玉?
いや、違う。ひょこっと耳が現れ、長い尻尾も生えている。
これは……。
「ね、ねこ……?」
「ほぇ? お前、にゃん子サマが見えるのか?」
真っ白で毛並みのよい白猫は、金色の瞳を光らせシャルロットをまじまじと見つめ返した。
「ね、ねこが……ねこが喋ったぁ!?」