北の山脈へ
城門前の転移陣でヴィリアム王子と待ち合わせた。
シャルとセオが荷を積んだ馬を引き待ち合わせ場所にいくと、ヴィリアムは若い騎士と、二頭の白馬を引き待っていた。若い騎士は、アリス姫の部屋の前にいた騎士だ。
「セオドリック……か?」
ヴィリアムはセオを見て驚いていた。
昨日まで子どもだったのだから無理もない。
今日は大人版のセオなのだ。
「ああ。よろしく。ヴィル」
「よろしく。それと――シャルロットも連れていくのか?」
ヴィリアムはシャルを見ると眉間にシワを寄せた。
シャルはお荷物だと判断されたようだ。
「言い忘れていたが、北の魔女は男嫌いなんだ」
「そうか……。だから兄の騎士団は魔女に辿り着けなかったのか。……男性は少ない方がよいな」
ヴィリアムは隣の騎士と顔を見合わせ小声で相談し始めた。
子供がどうこう聞こえてきたので、セオの護衛のために騎士を連れてきてくれたようだ。
「では、私はアリス姫の元に残ります。ヴィリアム王子。どうか、早くお戻りください。姫のあのようなお姿を見ていられないのです」
「分かっている。留守を頼むぞ」
騎士はヴィリアムに希望を託し、セオとシャルに深々と礼をした。
「では、三人で行こう」
「ああ。転移陣で北の山脈まで移動して、そこから先は馬で移動しよう」
ヴィリアムは頷き、三人で転移陣の上に立った。
騎士が見送る中、セオは移動場所を唱える。
「ゼロイチ番地……」
ゼロイチ番地?
イチ番地がこの王都の城門前だ。
ゼロイチ番地は地図上にも無かった。
シャルが不思議に思っていると、転移陣から光が溢れ出し、前に立っていた騎士が見えなくなっていった。
◇◇◇◇
転移先は森の入り口だった。
この先を馬で一時間ほど進むと北の魔女の領域に入れるそうだ。
ここから先は馬に乗る。
実はシャルは、子供の頃に子馬に乗ったことがあるだけで、久しぶりの乗馬だった。
「よろしくね。マイク……」
シャルは馬の体を撫でながら不安げに馬の名を呼んだ。
セオは軽々と馬に跨がると、いつまで経っても馬を撫で続けているシャルを見て苦笑いした。
「シャル? もしかして、馬に乗るの……」
「だ、大丈夫よ。昔は乗れていたからっ」
シャルはセオの不安を消し去るように作り笑顔で言いきると、思い切って馬に跨がった。
うん。イケル! マイクは大人しい馬だ。
そう思っていたが……。
ヴィリアム王子の冷めた声が後ろから聞こえた。
「冗談だろ? それでは落馬するぞ」
「えっ?」
「シャル。腰が引け過ぎ。俺の馬に一緒に乗ろう」
セオは、へっぴり腰で手綱を握るシャルを見て肩を震わせ笑って言い、シャルは恥ずかしくて馬の首に顔を埋めた。
ヴィリアムは冷静に自分の馬とセオの馬を見て、ある提案をした。
「それなら私の馬に乗るといい。セオの馬より大きいからな」
ヴィリアム王子の馬はシャル達の馬より一回り大きい。
それにセオの馬には荷物も沢山乗せていた。
セオは少し不満そうではあったが、自分の馬に乗せた積み荷を見ると、それを了承することにした。
という事で。
シャルはヴィリアムの白馬に乗せてもらうことになった。




