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呪われた姫

 ヴィリアム王子に先導され、セオとシャルは城へ通された。

 夕暮れ時、オレンジ色に染まる広い庭を横切り、城の東側の棟へと進んでいく。

 アリス姫の部屋の前には護衛の騎士が立っていた。

 シャルと小さなセオを見て眉をひそめていたが、ヴィリアムと二言三言会話すると、深々とお辞儀をして部屋へ通してくれた。

 静まり返った城内に、シャルは終始緊張していたが、セオとにゃん子サマは普段と変わらない様子だった。


 アリス姫の部屋は花の彫刻があしらわれた白い柱や家具で揃えられた落ち着いた女性らしい雰囲気の部屋だった。

 棚の上の花瓶に生けられた赤い薔薇が、白い壁に映え印象的だった。

 しかし花弁はしおれ、生気が薄い。まるでこの部屋の主の姿を物語っているようで気味が悪かった。


 ベッドに眠るアリス姫はお人形さんの様に美しかった。

 しかし顔は血の気が薄く、金色の長い髪は毛先の方から黒ずんで見えた。よく見ると指先も黒ずんでいる。


「セオ。黒く見えるのは呪いなのかしら?」


 シャルが尋ねるとヴィリアムもセオも、そしてにゃん子サマも驚いてシャルに目を向けた。

 口にしてはいけないことだったのかと思い、シャルは自分の口元を手で覆うと、セオが尋ねた。


「シャルも見えるのか?」

「え? ええ」


 ヴィリアムはベッドに腰を下ろし、アリス姫の黒ずんだ髪に手を触れた。すると、触れた部分だけ美しい金色の髪へと、光を取り戻していた。


 シャルがそれを不思議そうに見ていると、ヴィリアムはシャルに言った。


「本当に見えているのだな。とても優秀な助手だな」


 ヴィリアムはシャルを認めてくれたようだ。

 セオはシャルに微笑むと、アリス姫を観察した。


「王族の方で、呪いを解く力を持った方はいらっしゃらないのですか?」

「ああ。光の巫女の力は、代を重ねる毎に弱まっている。私の力も大したことはない。少しだけ呪いの進行を妨ぐことしか出来ないのだ。一番魔力が強いのは、アリスだった。……アリスの身体が冷たい。このままでは、あとどれくらい持つか分からない。それまでに呪いを解かねば……」


 ヴィリアムはアリスの頬を撫で、悔しそうに下唇を噛んだ。


 シャルはセオとヴィリアムの会話を聞いて思い出した。

 この国には、ある史実が語り継がれている。


 それは千年以上前の話。

 この国の成り立ちの話だ。


 昔、災厄の箱を開けてしまった女性がいた。

 この世界の災厄は広がり人々は闇に苦しめられ、多くの者が命を落としていたという。


 それを救ったのが光の巫女と勇者だった。

 光の巫女の力で闇は封印され、二人はこの地に国を作ったという。


 その二人の子孫が、現在の王族なのだ。

 光の巫女の力を引き継ぎ、呪いを制する力を王族は持っている……らしい。


 しかし、シャルはこの話を信じていなかった。

 セオとヴィリアムの会話だと事実のようだけれど、母が語った昔話の結末が滑稽すぎて、実際の話だとは思っていなかったのだ。


「その話、本当だったのね。たしか、その勇者様がたくさんの女性を娶ったから、光の巫女は怒って城から飛び出してしまったのよね?」

「……? それは初めて聞いたよ」


 ヴィリアムは呆気に取られた顔で首を捻った。

 セオも知らないようだ。


「あら? お母様はそう言っていたのに……。ごめんなさい。聞き流してください。――そんなことより、呪いをどう解くかですよね」


 シャルは気まずそうに、そして助けを求めるようにセオに目を向ける。


「あ、ああ。えっと……この呪いは恐らく死の呪い。呪いの中でも一番強力な物だ。呪いの媒体を破壊するか、光の魔法を使える者にしか解けない。媒体は、呪いをかけた奴が持っているだろう」


 セオがナディアに呪いをかけるときも、壷の中に色々な物を入れて混ぜていた。それが呪いの媒体だろう。


「そうか。北の魔女にコンタクトが取れるのは王妃なのだが……。魔女は、知らない、やっていないの一点張りなんだ。北の山脈に魔法使いと騎士団を送ったが、魔女に辿り着いたものはいない。もう時間がないのに……」


 暗い表情のヴィリアム王子に、アリス姫を助けたいという想いがひしひしと伝わってきた。セオは釈然としない様子でアリス姫を訝しげに見ていた。


「北の魔女が死の呪いか……。ヴィリアム王子。王妃様に会わせてもらえるか?」

「ああ。勿論だ」

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