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初めての依頼

 セオと一緒に暮らし初めて三週間ほどが過ぎた。

 先週からお店の前にチラシを貼り、シャルに代わるお手伝いさんの募集を始めたが、いい人は見つかっていなかった。

 何人か希望者が来たのだが、セオの厳しい審査により全員落とされていた。


 第一の審査は手作り料理だ。

 希望者の中には、一番街の名店で料理を買ってきた者もいたようだが、簡単に落とされていた。

 落とした理由は、シャルの料理の方が美味しいからだそうだ。


 そして第二の審査はにゃん子サマが見えること。

 しかし、希望者は全員にゃん子サマが見えなかった。


 シャルは自分がなぜにゃん子サマが見えるのか分からないけれど、にゃん子サマが見える人は中々いないそうなのだ。 


 セオは希望者と面接をする度に酷く疲れていた。


「今日の人もイマイチだったな。料理はあんまりだし、にゃん子サマも見えないし。それに……うーん。やっぱり他人を家に入れるのは、気が進まないものだな」

「セオ。私も他人だと思うのだけれど……?」

「ああ、そっか。シャルはにゃん子サマも見えるし、話しやすいし。そうそう、シャルと初めて会った時に食べた料理に人柄が出てたっていうか……。なんか一緒にいて安心するんだよね」

「そうなの? 嬉しいわ……」


 顔を赤く染め頬を押さえて俯いたシャルを見て、セオは慌てて付け足した。


「あっ。でも、俺に気を遣ってここでずっとお手伝いするなんて言わなくていいんだからな」

「うん。でも、私……ずっとここで――」


 その時、お店のベルが部屋に響いた。


 時刻は午後三時。こんな時間にベルが鳴るのは初めてだったが、求人広告を見て、また新たな挑戦者が現れたのかもしれない。


「お店、見てくるわね」

「ああ。よろしく」


 シャルはこのまま新しい人が決まらなければいいのにな、と思いつつ、店へと急いだ。


 ◇◇


 店の扉を開けると、白いローブを着た背の高い男の人が立っていた。

 顔は口元しか見えないが、上品な顎のライン、立ち姿。

 シャルは直感で、この人がイケメンだと判断した。


「依頼に来た。営業時間外にすまないが、話だけでも聞いていただきたい」


 依頼人が来るのは初めてだ。

 たまに魔法関連で困った人が訪ねてくるらしい。

 店の看板にも小さく依頼受付可、と記されている。


「はい。少し中で待っていていただけますか?」

「ああ。ありがたい」


 落ち着いた青年の声。どことなく気品溢れた物言いに、シャルは緊張しながらセオを呼びに行った。


 ◇◇


 セオの許可を得て、青年は部屋へ通された。椅子に腰かけた少年版のセオを見ると、面食らった様子で声をあげた。


「君が……セオドリック=シルヴェストか?」

「ああ。今日は少し小さめだが気にしないでくれ。依頼内容を聞こう」


 青年はそれを聞くとローブを脱いだ。

 シャルはその青年を見て、盆に乗せたお茶を危うく落としそうになった。

 そこに立っていたのは、この国の第二王子ヴィリアム=オースルンドだった。

 シャルはついその場で叫んでしまった。


「ヴィ、ヴィリアム王子様!?」

「あ、ああ。そうだ。呪いに関する案件なのだが……。セオドリック、君の力を貸して欲しい」

「成る程。詳しく聞きたいので、どうぞお座りください。シャルも一緒に……」

「は、はい」


 目の前に、憧れの顔面保有者である王子様がいる。

 シャルは緊張しながら椅子に腰を下ろした。

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