頼って欲しい
店を閉めて家へ帰ると、セオが丁度部屋から出てきたところだった。最近セオは昼時になると部屋から出て、昼食の仕度を手伝ってくれるのだ。
「シャル。……あれ? 何かあった?」
「えっ? 何もないわよ」
セオがシャルの顔を見上げ覗き込んできた。
今日のセオはシャルより背が十センチくらい低い。
日によって様々だけれど、やっと慣れてきたところだ。
セオいわく、高度な魔法を使うほど小さくなるそうだ。良く分からないけれど、にゃん子サマとの契約で、魔力を借りる代わりに若返ってしまうらしい。
「シャル。どうして嘘つくの? 涙の跡が頬っぺに残ってるよ?」
「ええっ」
シャルは咄嗟に頬を拭うと、セオはため息をついた。
「やっぱり。……話せるなら話して欲しい」
「うん……」
シャルはナディアとアシルが店に来たことを話した。
それから、シャルがセオに買われたと言われた話も。
セオは顔を真っ赤にして恥ずかしそうに怒った。
「な、何言ってんだよ。そいつら頭おかしいだろ。やっぱり今すぐヒキガエルにしてやる」
「で、でも大丈夫。そんなことはないって、ハルがあの二人に納得させてから追い出してくれたから」
「ハルが?」
「ええ。ナディアの悔しそうな顔を見たら、少しすっきりしたわ。だから大丈夫」
「ナディアの血縁者は店に入れないように魔法をかけておく。それから、何かあったらすぐに……俺を呼んで欲しい」
セオはシャルに訴えかけるような目で見つめていた。
「え……?」
「もっと頼って欲しい。あ、見た目はこんなチビだけど、すぐに元に戻れるからさ」
「セオ……」
「何かあったら相談しろよ?」
「うん。あ、セオってやっぱり初めて会った時のセオが本当の姿なの?」
「ああ。にゃん子サマは元々祖母と契約していた精霊で、俺が餓死寸前だった時に適当に契約しちゃってさ……。祖母と同じ内容で契約しちゃったんだよね」
「同じ内容?」
「そうじゃ。パメラは賢い娘でのぅ。にゃん子サマの魔力を借りる代わりに、自分の若さを引き換えにしたのじゃ。と言ってもパメラは歳じゃったからのぅ。強力な魔法を使う度に初々しく若返っていたのじゃ」
ということは、店番をしていたのはセオの祖母だけれど、見た目は若かったのだろうか?
「あ。だからハルはパメラさんに恋をしていたのね」
「パメラは長い間、看板娘として店に立っていたのじゃ。見た目は若かったからこそ、急に逝ってしまってのぅ。寂しいかぎりじゃ」
セオとにゃん子サマが、揺り椅子を見て祖母を思い出していた。
「お昼ごはん、作ってくるわ」
「俺も手伝う。昼はリンゴパイが食べたいな」
「分かったわ」
二人は揃って厨房へ。
にゃん子サマは揺り椅子でゴロゴロしながら呟いた。
「仲がいいのぅ~」




