惚れ直した?
ハルは顔を上げると、シャルの頭を優しく撫でた。
「シャル。大丈夫か?」
シャルは涙を指で拭い、ハルに明るく言葉を返した。
「ええ。……ありがとう。でも、そろそろ離してくれないかしら?」
「えー。いいじゃん。ちょっとぐらい。虐められてたシャルを助けてやったのに~。惚れ直した? むしろ惚れちゃった?」
ふざけるハルの手を丁重に下ろし、シャルはやっとハルから解放された。
「感謝はしているけど、惚れてはいません。……でも、どうして助けてくれたの?」
「どうしてって……。今さら聞く? 俺の愛は届いてないわけ?」
確かにハルは毎日花をくれる。でもそれは……。
「……パメラさんの代わりに、とかですよね?」
「酷いな~。そんなんじゃないよ。――真面目な話さ。……初めてシャルに会った時、昔の俺に似てるなって思ったんだよ」
「昔のハルに?」
「ああ。初めて王都に父と二人で来た時、俺も王都の街並みを見て瞳を輝かせてたな~って思ってさ。純粋そうなシャルを俺色に染めてみたくなったんだ」
「……あ、そう」
最後の一言さえなければ、素直に嬉しかった。
最後の一言さえなければ。だけれど。
素っ気なく返事をしたシャルに、ハルは口を尖らせて言い返す。
「何だよ~。そこはハル様ぁって抱きつくところだろ!?」
「嫌よ。私、そういう趣味はないわ」
「はぁ!? 折角助けてやったのに」
「そういう恩着せがましい男も嫌よ」
「えぇー。じゃあ俺の好きなとこは?」
シャルは、物欲しそうな目でこちらを見つめるハルを見て考えた。
そして、薔薇の花束に目が止まった。
「…………うーん。あ、花束が素敵。お店にハルの花束を飾ると、お客様が来なくても寂しくないのよ」
「それだけ?」
「ええ」
「花を見ると俺の顔を思い出す。とかじゃないのか?」
「顔はタイプじゃないわ」
それを聞くとハルはがっくしと肩を落とした。
でも、嘘を吐いて誉めるなんて出来ない。
ハルだって、正直にシャルと向き合ってくれているのだから。
「まぁ。いいよ。別にいいよ。……俺、今日忙しいからもう行くからな」
「もしかして、アシルがお店に来たから、ハルも来てくれたの?」
「そうだよ……って言ったら惚れ直す?」
一瞬、心が揺らいだ気がしたけれど、気のせいだった。
ハルの付け足した一言で、気持ちがスッと切り替わった。
「ううん。でもありがとう。ハルが居てくれて良かったわ。私一人だったら、何も言い返せなかった」
「へへっ。俺の店向かいだから、困ったらすぐに呼べよ。俺はシャルの婚約者だからな」
「自称……婚約者でしょ?」
「ちぇっ。今はそれでいいや。――あ~。すっきりした。じゃあな」
ハルは笑顔で帰って行った。




