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笑う人々

 扉の前で立ち尽くすシャルロットを、父は申し訳なさそうに見ていた。


 そう。この父親はいつも見ているだけ。

 なにもしないし、なにもできない人だ。


 向かいに座るアシルも困った顔をしていた。

 こいつも、シャルロットの父に似て、なにもしない人。


 こんな奴の妻にならないで済んだことは、よかったのかもしれない。そう思わないと、シャルロットはこの場に立っていられなかった。


 そして席を立ち上がったのは、アシルの父親だった。


「やあ。シャル、久しぶりだね。なんだか、また痩せたのではないか?」


 財産は全て義母や義妹のドレスや宝石、それから来客への豪華な食事に費やされ、使用人も雇えず毎日こき使われているのだから仕方がない。

 しかし、我が家の恥を晒す言葉など言えるはずもなく、ただアシルの父親に視線を向け、ぎこちなく微笑むことしか出来なかった。


「君の母親は、病気がちで早くに亡くなったそうだね。君も、母親譲りのその容姿。儚げで美しくはあるが……それでは困るのだよ」


 アシルの父親は知らない。

 シャルロットは風邪すら引いたことがないことを。

 でも、それは家族の皆が知っている。


「それに代わって。妹のナディアは息子と同い年で若く、そして身なりも美しい。アフリア子爵夫人に似たのだね。はっはっはっ」


 席に着く皆が、アシルの父の言葉で笑っていた。

 そこは笑うところ?

 遠回しにお母様を侮辱したの?


 シャルロットの心の中で、未来への希望を喪った悲しさが、怒りへと変わっていった。


「アシルの妻となる女性には、ソルボン家の跡継ぎを期待しているのだ。だからシャル、君には荷が重いと思ってな。両家で話し合ったのだよ」


 アシルの父親がシャルロットの両親へと視線を伸すと、お尻の重い父に代わって義母が立ち上がった。


「申し訳ございません。ソルボン伯爵様。シャルには、ナディアが婚約者になることを伝えておりましたの。こちらには、お祝いの言葉を言いに来たのですわ。……ですが、シャルはアシル様を大層お慕いしておりましたので、きっと、お似合いの二人を見て、ショックを受けたのですわ」


 シャルロットはこの場に、祝辞を言うために来たらしい。

 この女は、嘘が上手い。いつも嘘ばかりついているから、本当の事のように聞こえてくる。

 

「おお。そうか。そこまで想ってくれていたとは知らなかった。シャル、無理に祝いの言葉など言わなくてもよいぞ。はっはっはっ」


 また、席に着く皆が笑っていた。

 だから、そこ笑うところ?

 悔しい。今度は私を馬鹿にして、皆笑っているのだ。


 ならばせめて、淑やかで大人の女性を装ってやるわ。

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