夜の帰り道
夜はの一番街をセオと二人で並んで歩く。
街頭に明かりが灯り、空の星よりも輝いて見えた。
隣を歩くセオはシャルの歩調に言わせて、ゆっくりと歩いてくれている。いつもの小さなセオじゃないから、視線が交わる度に恥ずかしくて、つい目をそらしてしまっていた。
でも、こんな時間をセオと過ごせるのは、夜の街にシャルを誘い出してくれたハルのお陰だ。
ハルはお酒を嗜んだせいか、「俺は諦めないからな!」「絶対ぶっ潰してやる!」 などと叫びながら、フラフラと家へ帰っていった。
子爵家を潰すとか、結婚してくれとか、本当に騒がしい人だ。
パメラさんがいなくなって自棄になっているのかもしれないし、悪い人ではなさそうだから、適度な距離感を持って関わっていこうと、シャルは考えていた。
ふと前を見上げると城が見える。
セオの店を通り過ぎ一番街を城の方へと歩いていた。
「あら? セオ。お店、過ぎちゃったわ」
「今日は転移陣で帰ろう。……ハルがつけて来てるから」
「えっ。嘘っ!?」
振り返ろうとしたシャルの肩を抱き寄せ、セオはローブでシャルを包み込むと早足で歩いた。
「駄目だよ。見ちゃ。無視して帰ろう。酔っぱらいは御免だ」
「何でついてくるのかしら?」
「……アイツ、シャルの家がどこか探ろうとしてるんだよ」
「えー」
それは流石にちょっと引く。
悪い人ではないと思っていたのに。
「でも、ゼロ番地は俺とシャルしか行けないようになってるから。安心して」
「うん」
シャルはそこに自分の名前があることが嬉しかった。
家を出て二日目。
まだたった二日だけど……セオもにゃん子サマも優しいし、王都の夜をこんな風に歩くなんて夢のようだった。
「セオにはお世話になってばかりだわ」
「何言ってんだよ。シャルがいなかったら、俺は飢え死にしてたんだぞ?」
「でも……」
「あと一ヶ月よろしくな?」
「……ええ。そうね」
セオは後ろをチラッと見ると、シャルを隠したまま転移陣の上に乗った。
「――ゼロ番地」
セオの言葉に呼応し、転移陣は白い光を放つ。
「きゃぁっ」
シャルが小さく悲鳴を上げると、光の中でセオが支えてくれた。この温かさは転移陣の光なのか、それともセオだろうか。
後一ヶ月。
その先、シャルは何をしたいのだろう。
元々、伯爵家に嫁ぐ気持ちでいた。
でも、それがなくなって、今度はシスターになろうかと安直に考えていた。
だけど、セオに出会って、家の手伝いをして……それがとても楽しい。
このままずっと、こうして暮らしていけたらいいのに。
シャルは密かにそう願った。
光が収まり目を開けると、小さな煉瓦の家があった。
「シャル、家に入ろう」
「ええ」
あと一ヶ月もあるんだ。この先を考える時間はまだまだある。
今は助けてくれたセオに恩返しすることだけを考えよう。
差し伸べられたセオの手を握り返し、シャルはそう心に留めた。




