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ディナー

 シャルの心配を余所にハルは涼しい顔だった。

 そして、先程まで夕陽が染めていた空を見上げてキザっぽく言う。


「ここの店はな、王族も利用する由緒正しい名店なんだぜ? 今日は俺とシャルの出会いを記念して予約を取ったんだ。……だけど。何でお前までいるんだ」


 ハルはセオをじとっと睨んだ。

 セオはハルの視線など構うことなく、出された食事とにらめっこをしていた。


 多分、初めて見る食べ物なのだろう。

 シャルが作ったシチューも昨夜が初見だった。

 きっと、サラダも初めてなのだ。


 セオはハルを無視してサラダを一口。


「うーん。シャルの作った料理の方が美味しいな……」

「は? セオ。今なんつった?」

「シャルの料理の方が美味しいと言ったんだ」

「はぁぁぁぁぁ!? お前らやっぱり付き合ってるんだろ!? シャル、こいつは止めとけ。こいつは頭の中に夢と魔法しか入ってないからな。店はそれなりに繁盛してるけど、ただの引きこもり野郎だからな!」


 テーブルから身を乗り出してわめき散らすハルに、セオは呆れた様子で淡々と答えた。


「別に、シャルは店を手伝ってくれているだけだから。シャルは子爵令嬢。俺みたいなただの庶民と、どうこうなる訳ないだろ?」

「へ? シャルって子爵令嬢なの?」


 ハルはテーブルを乗り出してシャルに顔を近づけた。


「もう違うわ。私は家とは縁を切って自由に生きるのよ」

「どうして家を出たりしたんだ? 勿体ない」


 シャルはなぜ家を飛び出したかハルに話した。

 話し終えてから、どうしてハルに話してしまったのか、ふと我に返る。

 でも、ハルが意外と親身に聞いてくれていたから話してしまったのかもしれないと気付いた。

 ハルの目は冷やかしたり馬鹿にしたり見下したりするものとは違っていた。下っ端のハルには、どこか分かり合える部分があったのかもしれない。


「……アフリア子爵家かぁ。聞いたことないな」

「田舎の貧乏貴族だもの」

「あ。でも、ソルボン伯爵家は取引先にあるぜ。あのボンクラ野郎の元婚約者か~。結婚しなくて良かったじゃん。あいつマザコンだし」

「えっ? ハルはアシルを知っているの? しかもマザコンだってことまで」

「まあな。世の中大事なのは情報だぜ? ……でもさ、やっぱりシャルはセオの金を取り返して、子爵家を没落させた方がいいと思うぜ?」


 ハルはメインディッシュの子ウサギの赤ワイン煮を一口食べた。


「どうして?」

「弟って連れ子? それとも伯爵の実子?」

「弟が一歳の時に、義母と父は結婚して屋敷で暮らすようになったわ。義母はルシアンに継がせるつもりだったから、私もルシアンが継ぐのだと思っていたわ」

「連れ子なら爵位は継げないだろ。んなこと認めてたら何処の貴族も毒婦だらけの血筋になっちまうからな」

「そっか。気にしたことも無かったわ。ルシアンはとても良い子だから」


 シャルはルシアンの笑顔を思い出した。

 ルシアンならきっと、立派な伯爵になるだろう。


「シャルは優しいんだな。アフリア家のことは俺が調べとくよ。――だけどさ、セオ。アフリア家を借金で潰しちゃえよ。んで、俺が借金まみれのアフリア家を金で救ってやって、その代わりにシャルと結婚する!  邪魔な奴らは全員追い出す。俺は貴族になれるし、シャルはアフリア子爵家を継ぐことができる。最高のプランだぜ!」


 自信満々のハル。この国は女児でも爵位を継ぐことができるが、男児優先だ。それに、他にも色々と障害がある。


「セオは金貨三千枚も出してくれたのよ。私は一生かけてでも働いて返すつもりだけれど、ハルにそんな大金は用意できないでしょ。それに……私、ハルはタイプじゃないわ」

「えっ!? 花束受け取ってくれたじゃん!?」

「押し付けてきただけでしょ」


 ハルは驚愕の表情で固まっていた。

 隣でセオがお腹を抱え、声を殺して笑っている。

 放心状態のハルは、ヘラヘラと笑いながら、なんとか言葉を返した。


「えー。――まぁ。まだ知り合ったばかりだしな。気にしない」

「気にしろよ」

「気にしない! セオは黙って食べてろよ!」

「はいはい」


 意外と仲の良い二人を、シャルは静かに笑って見ていた。

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