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ベッドとの再会

 午前中、昨日と同じ時間にお店のベルがなった。

 店の扉を開けると、黄色い花の花束を渡された。

 渡してきたのは勿論ハルだ。


「やぁ。僕との約束を破ったシャルロッテにはこの花束を授けよう」

「いらないけど」

「おい~。まずは謝れよ。俺、日が落ちても待ってたんだからな」


 黄色い花を弄りながら、ハルは意気消沈としていた。忘れていたとは言い辛くなってしまった。


「ごめんなさい。その……。ベルを鳴らせば良かったのに」

「ベルを鳴らしたって、もう店は閉まってるだろ? もしかして、シャルはこの店に住み込みなのか?」

「えっ?……こ、こんなところに住めるわけないでしょ」

「だよな。だったら、家を教えてくれたら迎えに行くぜ?」


 店に人が住めるスペースはないから否定をしたが、どこに住んでいると言ったらいいのか分からなかった。それに、男の人の家にお世話になっているなんて恥ずかしくて言えない。


「お店の前にしましょう。引っ越してきたばかりで、何て説明したらいいか分からないの」

「いいぜ。でも、今日も来なかったら、明日は家までついてくからな!」



 ハルが仕事を終えると、意気揚々と帰っていった。

 店で一人になると、シャルはふと思った。


「私、何で約束なんかしちゃったんだろう」


 つい勢いで約束してしまった。

 ハルは悪い人ではなさそうだけど、これは巷で言うデートかもしれない。ここはやっぱりセオに相談しておこうと思った。


 ◇◇


 午後はセオの部屋を片付ける約束をしていた。

 ベッドで寝る習慣がないと言うセオに、シャルがダメ出しをしたのだ。


 床に散らかっていた物は、沢山ある素材置き場や物置部屋へと片付けた。しかし、落ちていたものにゴミが混ざっていなかったことにシャルは驚いた。


 重い物も多く、セオも進んで荷物を運ぶ姿を見て、にゃん子サマは感嘆の声をあげている。


「セオが片付けをするなんて初めてなのじゃ。シャルは凄いのぅ。セオに生活感がでてきたのじゃ」

「片付けぐらいするよ。……多分」


 思い返しても片付けの記憶など存在しなかったのだろう。セオは語尾に多分、と素っ気なく付け足していた。

 片付けが終わり、セオが数年振りのベッドとの再会を果たすと、二人は休憩をとった。


 シャルはビスケットとお茶を用意しセオの向かいに座ると、ハルについて尋ねた。


「今日、ハルが街を案内してくれるらしいの。勢いに負けて約束してしまったのだけれど、どうしたらいいかしら?」


 するとセオはビスケットに伸ばした手を止め、驚いて目を丸くさせた。


「え? あのハルに誘われたの?」

「ええ。どうしたの?」

「アイツ、ずっとパメラさん一筋だったのに」

「パメラさんって……セオのお婆さんよね?」

「ああ。俺の婆ちゃん。パメラさんって呼ばないと怒るんだよ。ハルの奴、もしかしてパメラさんからシャルに乗り換えたのか?」

「そんなことはないと思うわ。新参者の私に街を案内してくれるだけよ」


 あんなに熱烈にお婆さんに恋をしていた人が、急にシャルに乗り換えるのはどうも理解しがたい。しかしセオは眉間に深くシワを刻み、小さく唸っている。


「うーん。そうかな? パメラさんが言ってたんだ。アイツ、遊び人だって噂を聞いたことあるって。その約束いつ? 俺も行く」

「え?」

「それ、絶対にデートだ! 俺もついてくよ」


 小さなセオは一歩も譲らない様子で宣言すると、お茶を一気に飲み干した。

 こんな小さな身体で凄まれても、可愛いとしか思えなかった。

 でも、口には出さないでおいた。

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