シャルの料理
セオは揺り椅子の上で目を覚ました。
「あれ? 俺、何でここに?」
膝の上ではにゃん子サマが寝ている。
時計を見ると、今はもう昼過ぎだった。
久しぶりにぐっすり眠った気がする。
いつも机に突っ伏して寝てばかりだった。
セオは、揺り椅子をゆっくりと揺らしてみた。
よく祖母がこの椅子に揺られながら編み物をしていた。
懐かしい。
もう二度と見ることの出来ない光景だ。
セオはにゃん子サマを撫でながら尋ねた。
「にゃん子サマ。君が運んでくれたの?」
「んん? にゃん子サマはそんな事しないのじゃ」
「え。じゃあ誰が……?」
その時、キッチンの扉が開き、焼きたてのパンケーキを盆に乗せたシャルが現れた。
「あら? セオ、丁度いい時に起きたわね」
「ああ。シャル……」
セオは、シャルが来ていたことをすっかり忘れていた。こんな所でだらしなく寝ていたかと思うと恥ずかしくて、慌てて揺り椅子を飛び降りた。
床に立つと、昨日は自分より小さかったシャルが大きく見え、セオは自分の体を見返した。
長すぎて床についてしまったローブ。
ブカブカの洋服。
そうだ、今は身体が小さくなっていたんだ。
「一緒に昼食をいただきましょう?」
「ああ。ありがとう」
セオは久しぶりに食卓で食事にありつけることとなった。
◇◇
セオは黙々とパンケーキを食べている。野菜スープも添えたのだが、そちらは手付かずだった。
「セオはパンケーキしか食べないの?」
「うーん。多分、そんな事ないかな。祖母は料理が苦手でさ、パンケーキしか作れなかったんだ」
「そうじゃったのか!? にゃん子サマはてっきりセオはパンケーキしか食べないのかと思っていたのじゃ」
セオは訝しげにスープを睨み、口を付けると一気に飲み干した。
「やっぱシャルの料理は美味しい! 祖母が作ったスープは変な味しかしなかったから。この家でスープを見ると、つい無視しちゃうんだよな」
「そうだったの。喜んでもらえて良かったわ」
「おお。セオが自分で進んで食事を取るとは……感激じゃのぅ」
もしかして、セオは食べるのが面倒なのではなく、料理の味が苦手だったのかもしれない。
「夜ご飯は何がいい?」
「うーん……」
「じゃあ、シチューなんてどう?」
「いいね、それで宜しく! 楽しみだなぁ。シャルの料理」
セオは嬉しそうにパンケーキも平らげ、また自室へと戻っていった。どうやら、シャルの料理はセオの胃袋をつかんだようだ。
◇◇◇◇
シャルは一日の仕事を終え、ベッドに横になった。
家を出て初めて過ごした一日。
とても楽しく過ごせた。
セオは夜ご飯のシチューも喜んでくれて、おかわりまでしてくれたし、掃除はもともとこの家が綺麗だから簡単。
お風呂はセオが魔法で湯を沸かしてくれるから楽だった。
お店の店番はドキドキしたが、お客さんは来なかった。
開いている時間も短いし、商品を買いに来るお客さんは少ないらしい。
でも、転移陣の使用料だけで、毎日何十枚も金貨が手に入るとか。
それに、色々なお店にセオの作った魔法道具が置いてあるので、普通のお客さんより、ハルのような業者の人が多いみたいだ。
そう。ハルのように……。
「あ。ハルとの約束。すっかり忘れていたわ……。まぁ、いっか」
時刻はもう夜の八時を過ぎていた。
きっとハルは明日も仕入れに来る。
その時に謝ろう。
シャルは枕に頭を乗せると、そのまますぐに夢の中へと落ちていった。




