下っ端な少年
「誰だお前!?」
「わ、私はシャルロットよ。今日からセオのお手伝いをすることになったの」
「はぁ? じゃあ、俺のパメラさんは? パメラさんはどこ行きやがったぁぁぁぁ!!」
少年が発狂した。だからこの人なんなのよ。
少年の後ろには手押しの荷車がある。
お客さんというよりは仲買人か商店の下っ端のようだ。
顔が完全に下っ端だから。
頼りのにゃん子サマはというと道具屋の奥で寛いでいた。
お客さんの前ではにゃん子サマに話しかけないようにと言われているので、ここはやはりシャルが一人で対応しなくてはならない。
「私、昨日ここに来たばかりで、知らないことばかりなのよ。用件があるなら言って。セオに伝えておくわ」
「えー。じゃあ。俺のパメラさんはどこですか? 後、いつもの奴、一週間無断で休みやがった分をまとめて売りやがれ。ついでにマケやがれ。って伝えてくれ」
「それ、本当にそのまま伝えていいの?」
あまりにも乱暴な言葉遣いの少年に、シャルは唖然として尋ねた。
「いいよ。どうせ嫌われてるし。男に嫌われても何とも思わないし」
「あー。そう。それと、貴方の名前は?」
「ん? 俺? ロドリーゴ商会のハルだよ。顧客ぐらい店に立つ前に勉強しとけ!」
「な、何よ。本当に失礼な人ね!? ふんっ」
シャルは扉を雑に閉めた。
にゃん子サマがアイツと言っていた理由が分かる。
ハルにはアイツという呼称がピッタリだ。
「にゃん子サマ。何アイツ!? 本当に常連さんなの?」
「そうじゃ。いつも自分の店を開ける前に、商品を買いに来るのじゃ。アイツはいつもああだから気にすることはない。因みに、アイツに渡す商品はこの巾着袋の中に入っておる。荷車の上でひっくり返せば中身がでる。金貨は一枚もマケぬと伝えて欲しいのじゃ」
「そう。……あっ。そうだわ。パメラさんってどなた? どこかで聞いた気がするのだけれど……何て伝えたらいいかしら?」
「パメラはセオの祖母の事なのじゃ。じゃからのぅ……亡くなったとは言い辛いし、遠くの国にお嫁にいったと伝えといてくれんか? ずっとパメラを好いていてくれておったアイツが、どんな顔をするか楽しみなのじゃ」
ほのぼのと答えるにゃん子サマだが、随分と腹黒いことを言っているような……。
それに、ハルはセオの祖母に求婚していたということになる。
シャルはお婆さんに花束を捧げるハルを想像した。
何とも不可解な光景だ。
でも、好みは人それぞれだし、お婆さんが独り身だったら、ありなのかもしれない。
シャルは不思議に思いながらも、そのままハルに伝えることにした。
巾着袋をカウンターから取り扉へ向かうと、外ではハルが不機嫌そうに口を尖らせて待っていた。
「おい。やけに早かったけど、ちゃんと伝えたのか?」
「ええ。伝えたわ」
「でさ、パメラさんは?」
「遠くの国にお嫁に行ったそうよ」
「う、う、嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ハルは花束を抱きしめて泣き崩れた。
何だか可哀想だ。
ハルは恥ずかしいぐらいわんわん泣き叫んでいる。
あまりに騒がしいので、シャルは急に人目が気になり、通りを見回した。
そして――外の世界に吸い寄せられるようにして扉向こうへと一歩足を踏み出した。
「――ねえ、ハル。ここどこ?」
ここは大きな商店が立ち並ぶ広い通りだった。
まだ朝なので店は半分くらいしか開いておらず、人通りも少ない。しかし、自分の育った街と比べると、この街の発展度は天と地ほどの差があった。
道の奥には美しいお城も見える。
「はぁ? お前、自分がどこで働いているかも知らないのか? 頭大丈夫か?」
さっきまで泣き叫んでいたのが嘘のように、ハルはケロっとして悪態をついた。
「し、失礼ね。ちょっと聞いてみただけよ」
「へぇ~。まぁ。お前も女の端くれだから教えてやるよ。ここは王都の一番街。この国で一番活気に満ちたストリートだぜ」
ハルはまるで自分の街だとでも言うかのように、自慢気に通りに手を差し伸ばし、そう答えた。




