表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/84

私の場所

 今日は婚約者が家に訪ねてくる日だ。


 目の前の鏡に映るは、薄幸の少女。

 それは私、子爵令嬢シャルロット=アフリアだ。


 私のエメラルドの瞳や金髪は、母親譲りで色素が薄め。

 そのせいでよく病弱に見られる。

 しかし私は、風邪すら引いたことがない。

 元気だけが取り柄である。


 一ヶ月後、私はこの家を出て、伯爵家の長男アシル=ソルボンと結婚する。

 これは小さいころから決まっていた縁談だから、私がとやかく口を出せることではない。


 例えば、アシルは優しいけれど、顔はタイプではないとか。

 本当はマザコンでナルシストだとか……。

 でもそれは、ほんの些細なことだ。


 彼の家は誰もが羨む裕福な家柄。

 反対に我が家は没落しかけの貧乏な田舎子爵。


 いくらアシルがタイプではないからと言って、私はこの幸せを逃すほど馬鹿ではない。この家でこれから先も暮らすことを考えたら、むしろ何百倍も幸せではないかと思う。


「シャル姉様~?」

「あら、ルシアン。どうしたの?」


 鏡台に向かうシャルロットに、後ろから抱きついてきたのは義弟のルシアンだった。


 栗色の髪はサラサラで、瞳はキラキラ。

 義母譲りの美少年。まだ六歳なのにこの美少年っぷり。

 この先が楽しみで仕方がない。


 それに、ルシアンは誰に似たのか、素直で可愛い。

 この家で唯一の味方であり、癒しの存在なのだ。


「シャル姉様の婚約者、もう来てるよ?」

「ええっ。もういらしたの? ルシアンは一人でここで待っていられる?」

「うん。今日のシャル姉様、今までで一番綺麗だよ。頑張ってね!」

「ええ。ありがとう」


 今日も、ルシアンの天使の様な微笑みをいただきました。

 子供嫌いの義母に代わってルシアンを育てたのはシャルロットだった。


 再婚してからの五年間、シャルロットは炊事洗濯家事掃除、そしてルシアンの母親代わりをこなしてきた。義母や義妹が散財するせいで、使用人を雇うお金も厳しくなったからだ。


 それも、この婚約があったから耐えてこられた。

 終わりのある苦しみだから、我慢できた。


 シャルロットは婚約者が待つ部屋の扉の前で立ち止まり、一度大きく深呼吸をした。


 婚約者は二つ年下の十五歳。

 シャルロットがしっかりしなくては。

 シャルロットは、淑やかで落ち着いた大人の女性を……大好きだった母親の様な女性を目指していた。


「お母様。どうか見守っていてください……」


 胸に手を当てシャルロットはそう呟くと、扉をゆっくりと開いた。


「遅れてしまい申し訳ございません。アシル様。今日は――」


 頭を上げアシルと目が合い、シャルロットは絶句した。

 会食は始まっていた。

 この席の主役の一人であるシャルロットがいないまま。


 シャルロットの席には、我が物顔で座る義妹──ナディアの姿があった。

 美しいドレスに身を包んだナディアを見て、シャルロットは理解した。


 私の場所。私の未来が──。

 ナディアのものになってしまったということを。


 義母はシャルロットに気付くと、口元に笑みを浮かべた。


「あら。遅れても問題ないわ、シャルロット。今日の主役はアシル様とナディアなのだから……」

お読み頂きありがとうございます!


少しでも先が気になった方、ブクマ・評価等

応援☆ミ頂けると嬉しいです(o^∀^o)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ