呪いたい
セオは突然、物騒な話を始めた。
「いやー。あんな話聞いたら、腹の虫が治まらないっていうか。やっぱり、ああいう女をさ、幸せにしてやりたいなんて思えないだろ? むしろ、ぶち壊してやりたい」
セオはナディアの髪の毛を掲げ、そう断言した。
「せ、セオ?」
「まぁ、シャルが乗り気じゃないんなら、軽めの呪いにするか。おとぎ話に出てくるような可愛い呪いとか?」
「そ、それは決定事項なの?」
「ああ。俺は、自分が幸せに成る為に、誰かの幸せを奪うような奴は許せない」
確かに、シャルの幸せは、ナディアに奪われてしまった。今となってみれば、あの婚約が幸せだったのかもよく分からないけれど。
「あまり深く考えるなって……。人を不幸に陥れたら、巡りめぐって自分に返ってくる物だしな」
「それって……。ナディアを呪ったら、私まで呪われそうね」
「大丈夫。呪いをかけるのは俺。シャルの願いでかけるわけでもないんだから、呪いが巡りめぐって還ってくるとしたら、
俺に還ってくる。だからシャルは気にするなって!」
「でも……その方が気掛かりだわ」
シャルはにゃん子サマに助けを求めて視線を送るも、にゃん子サマはニコニコしているだけで、セオを止める気など更々ない様子だった。
「よぉし、決めた。ヒキガエルの呪いにしよう。ナディアが男の人にキスされると、ヒキガエルに変身するんだ」
「それって、元に戻るのよね?」
「ああ。その男の人に、もう一度キスをしてもらえば元に戻る」
果たして、ヒキガエルにキスをする男などいるのだろうか。
「もしも、キスされなかったら?」
「一ヶ月はそのままだ」
「そう。放っておいても、一ヶ月後には戻るのね」
シャルの安心した顔を見るとセオは眉をひそめた。
「そうだけど。シャルは優しすぎるよ。あんな奴の心配なんかして」
「一応、妹ですもの」
「俺は……互いを思いやれない家族なんか、必要ないと思うけどな。血の繋がりとか関係なしにしてもさ」
ふてくされた様子のセオに、にゃん子サマが口を挟んだ。
「セオの姉は破天荒な奴でのぅ。セオも色々苦労したのじゃ」
「そうなのね。……ナディアには少し反省して欲しいし、セオの好きにしていいわよ」
「よし! 決まりだな。一ヶ月後の結婚式が楽しみだな!」
シャルはセオに言われて気がついた。
ナディアは結婚式の途中でヒキガエルになってしまうのだと。
しかし、結婚式にはシャルも参列予定だ。
セオと一緒に参列して、ちょっとした余興だと、笑い話にでもなればいい。
この時のシャルは、そう軽く考えていた。




