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魔法使いの家

 セオの家は『魔法使いの家』という言葉がピッタリな家だった。

 玄関扉を開けると、まず視界に飛び込んできたのは、部屋の奥にある大きな暖炉だった。その隣には揺り椅子があり、大きな絨毯が敷かれている。

 部屋の真ん中には食卓用のテーブルが置かれ、椅子は四脚ゆったりと間隔を空けて置かれていた。


 この部屋は、外で見た家の大きさとは不釣り合いなほど広々としていた。しかも、部屋には別の部屋へ通じると思われる扉が四つもある。


「ここはお客様とか依頼人が来た時に話をしたり、祖母が趣味の編み物をしたりする時に使う部屋だったんだ。祖母はここで食事も取っていたよ。シャルも好きに使って」

「そうなのね。外からでは分からなかったけれど、とても広いのね」

「ああ。俺は空間と空間を繋げる魔法が得意なんだ。ここの山小屋は静かで祖母のお気に入りでさ。昔住んでいた家と繋げたんだ」

「へぇー」


 凄すぎて正直よく分からなかった。

 でも、転移陣も同じような原理なのかもしれない。

 セオの説明は更に続いた。


「右側の二つの扉は……そうだな。一つはシャルの部屋にしよう。昔、姉が使っていた部屋なんだ」


 セオが扉を開けると、天蓋付きのベッドと白を基調としたクローゼットや鏡台が置かれた部屋に通された。お姫様でも住んでいるような部屋だ。


「可愛い。素敵ね。でも使っていいのかしら?」

「ああ。姉はここには二度と帰ってこないから、気兼ねなく使っていい。それから次は……」


 今度はシャルの部屋の隣の扉だ。


「ここは、キッチンと浴室と庭に繋がってる」


 セオが一度扉を開けると、素敵なキッチンが現れた。

 そして扉を閉めて、また開けると、今度は大釜が二つ置かれた部屋。もう一度開け直すと、長閑な田園風景が広がり、鶏小屋とヤギが見えた。


「えっ?」

「行きたいところを考えれば行けるよ。すぐ慣れるって」

「そ、そうなの? でも、大きな釜が見えた気がしたのだけれど、あれは何かしら?」

「あー。あれが風呂なんだ。ひとつが風呂で、もうひとつが調合用。大量に薬品を作る時に使うんだ」

「成る程……」

「で、こっちは俺の部屋」


 セオは左側の壁にある二つの扉も案内してくれた。


「こっちが、素材部屋と、物置部屋。あと、十部屋ぐらいと繋がってる」


 開け閉めする度に違う部屋が見えた。

 本ばかりの部屋、引き出しの多い棚がズラリと並んだ部屋、それから空の薬瓶が沢山置かれた部屋など色々だった。

 全てに共通するのが、そのどの部屋も綺麗に整頓されているということだった。


「すごく綺麗に片付けているのね」

「あー。祖母は綺麗好きだったから……」


「祖母は。がポイントなのじゃ!」

「にゃん子サマ。俺だってやろうと思えばだな……」

「面倒臭がって食事もとらぬ様な奴が、やろうと思っても出来るはずないのじゃ!」

「そうね。でも大丈夫よ。これからは私がいるんだから!」

「頼もしいのぅ。セオ、シャルがいるうちに、ちゃんとお手伝いさんを探して雇うのじゃぞ」

「はいはい。求人広告でも作りますよ。――で、俺は大体自分の部屋にいるから、何かあったらこの部屋に来てくれ」

「分かったわ」

「それから――この扉がゼロ番地に出る玄関で、隣の扉は俺の店に繋がってるから」


 玄関の隣にはもうひとつ扉があった。

 赤い扉の右上にはベルがついている。


「このベルがなったら、お店にお客さんが来たって合図だ。祖母が亡くなってから店は閉めてたんだけど……そろそろ開けるか」

「セオは祖母のパメラが亡くなってから鬱ぎこんでおってのぅ。魔法道具造りに没頭してたのじゃ。──それで、餓死寸前になったのじゃ。店を開ける気になるとは、シャルのお陰じゃのぅ」

「うるさいな。作った道具が邪魔だし、店に並べて売りさばくために開けるだけだ」

「そういうことにしておいてやるのじゃ」


 言い合うセオとにゃん子サマは、ただじゃれ合っているだけに見えて微笑ましい。


「ふん。……あ、シャル、食事や掃除とかはにゃん子サマに聞いてくれ。にゃん子サマは元々は祖母の連れだから、祖母がしていたことは俺よりにゃん子サマの方が知ってる」

「分かったわ」

「仕方ないのぅ。シャルになら特別、このにゃん子サマが色々教えてあげるのじゃ!」

「よろしくお願いします」


「あ、それからさ。ひとつだけ俺の我が儘、聞いてくれるか?」


 セオドリックは栗色の長い髪の毛を一本、シャルロットに見せた。


「な、何かしら?」

「ナディアの髪の毛。これでさ。あの子の事、呪っていいか?」

「はい?」


 相変わらずの涼しい笑顔で、セオはとんでもないことを言い出した。

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