再スタート
「貴方が魔法使い様? ねぇ、どうしてそんなにお金持ちなの?」
ナディアはセオドリックを甘えた目で見上げ尋ねた。セオドリックは苦笑いしながらシャルロットに視線を伸ばす。
「ナディア。貴女、失礼よ!」
「そうかしら? まぁ、いいわ。――ルシアン。大好きなお義姉様に挨拶しなさい」
ナディアはルシアンの肩を掴み、前へ押し出した。
ルシアンは拳を握りしめて悔しそうに涙をボロボロと流し始めた。
「ぅぅ……シャル姉様。本当に行っちゃうの?」
「ルシアン……」
ルシアンはナディアの手を振り払い、シャルロットに抱きついた。
「また、お母様に意地悪されたの? だから出て行っちゃうの?」
「そ、そんなことないわ。私は魔法使いさんのお手伝いをするだけよ」
「それだけ? じゃあ、いつ帰ってくるの? すぐだよね?」
「それは……。ルシアンがもう少し大きくなったらかな?」
「じゃあ、すぐに大きくなるよ。そしたら、僕がシャル姉様を守ってあげる!」
「ルシアン……。大好き」
シャルもしゃがんでルシアンを抱きしめた。
ナディアはその隙にセオドリックに話しかけているが無視されている。
「シャル。行こう」
「ええ。ルシアン、またね」
「うん……あ、遊びに行ってもいい!?」
「あっ。じゃあ私も!」
「俺の店は王都の一番街にある。仕事場だから遊びに来るのは無しだ」
セオの言葉に、ルシアンがしゅんっと肩を落とした。
しかし、ルシアンには申し訳ないが、ナディアが来るのはシャルもセオも遠慮したい所だった。
◇◇
ルシアンと涙の別れをしたシャルロットは、ハンカチで涙をぬぐい屋敷を出た。
セオドリックは門の前で屋敷に振り返ると言った。
「まともな人間もいたんだな」
「ルシアンのこと? あの子は一歳の頃から私が育てたのよ」
「成る程。それなら納得だ」
「ねぇ。一ヶ月後の結婚式の前日に、私は失踪した事にして、お金を返金させる予定だったでしよ?」
シャルロットは隣国へ亡命し、セオドリックは金貨二千九百七十五枚を、アフリア家から回収する予定だった。
きっと義母なら無駄遣いするだろうから、全額は返金できない。
契約通り、この屋敷を奪われ、追い出されるだろう。
恐らくナディアの結婚も無くなり、シャルロットを不幸にした者達から全てを奪うことが出来る。
そんな計画をセオドリックと立てていたのだ。
「ああ。他にもして欲しいことがあるのか? 何でも言っていいぞ?」
「違うわ。計画を、やっぱり無しにしてもらえないかしら?」
セオドリックは口をポカンと大きく開いて固まった。
「えっ……何で? ……あ。もしかして、ルシアンのためか?」
「ええ。あの子まで路頭に迷うことになったら、私……とても辛いわ。だから、仕返しなんかやめる! この家とはもう縁を切って、家族の事は忘れて、自由に生きようと思うの!」
「ぉぉ~。なんと心根の良い娘なのだ。にゃん子サマは応援はするぞ~」
「ありがとう。私は自由に生きるって決めたわ! 今日から私は、ただのシャルロットとして、再スタートする。まずはセオに恩返しがしたいの。金貨三千枚分働くなんて、一生かかっても出来ないかもしれないけれど……セオの所で、私を雇ってください!」
 




