家族会議
セオドリックは部屋から出て行ったが、にゃん子サマは部屋の隅で欠伸をし、シャルと目が合うとニヤリと微笑んだ。やはりにゃん子サマはしかしシャルロット以外には見えない様子で、アフリア家の家族会議が始まった。
「シャル。貴女、十年ちゃんと働ける?」
「私は……」
「いい話だと思うわよ? 十年働けば、一族みんな、一生遊んで暮らせる程のお金が手に入るのよ。貴女の大好きなお母様が愛したこの家を、守りたいでしょ?」
母が大切にしてきたこの家は、母の形見といっても過言ではない。
しかし、母の遺品を全て売り払った義母にそれを言われると、なんだか腹立たしい。
「お義母様。私、実は面食いなんです」
「はぁ?」
「父もそうだと、ご存じでしょう?」
「ま、まぁ……そうね」
義母は自分の頬に手を添え満更でもない様子で微笑んだ。
「私、魔法使いさんに一目惚れしてしまったのです。彼にその気はないようですが、私はあの魔法使いさんに、永久就職したいと思っております」
「あらあら。そうなの。良いんじゃないかしら。この家には二度と帰って来なくてもいいのよ。お金さえあれば、使用人も沢山雇えるもの。それに……ナディアに持参金を沢山持たせられるわ。きっといい待遇で迎え入れてもらえる。いいこと尽くしだわ。ね、貴方?」
「そうだな。良かったな。シャル」
「はい。お父様。今までお世話になりました」
シャルロットは両親に深く頭を下げた。
「シャル。そんな今生の別れのように言わなくても……。十年後には戻ってくるだろう?」
「そうですわね」
シャルロットが微笑んだ横で、義母は父親の発言を鼻で笑っていた。どうせ十年後にシャルロットを受け入れる気などないのだろう。
勿論、シャルロットも義母の元に帰るつもりはない。
「はいはい。じゃあ決まりね! シャル。魔法使いを呼んできて!」
「はい。お義母様」
◇◇
シャルロットは自室で荷造りを済ませた。
契約は無事完了した。
義母も父親も大金を前に大層舞い上がっていた。
シャルロットのことなど全く眼中にない様子で。
でもそれでいい。
あの両親がこれからどうなろうと、シャルロットは胸を痛めずに済むではないか。
荷物を手に廊下へ出ると、セオドリックとにゃん子サマが待っていてくれた。多分、義母や義妹が嫌みを言いに来ないようにそばに居てくれているのだと思う。
「荷物、持つよ」
「ありがとう。でも、びっくりしたわ。まさか、あんな小さな巾着から金貨が三千枚も出てくるなんて」
セオドリックは、懐から出した小さな巾着から金貨をザクザクとテーブルの上に溢れさせたのだ。
「ははは。俺は魔法使いだからな」
「ふーん。もう一度聞くけれど、あの金貨……」
「本物だよ。まぁ。あの人達が夢を見ていられるのは、一ヶ月だけだけどな……」
「そうね」
廊下を曲がると玄関ホールだ。
そこには、ナディアとルシアンが待っていた。
ルシアンは目に涙を浮かべ、ナディアは興味深そうにセオドリックを見ていた。
 




