生きるということは、基本的に苦しいこと「悪童日記/アゴタ・クリストフ」
ちょっと前に映画化して話題になりましたね。双子の美少年のビジュアルがイケてました。硬派な顔立ちですね。双子の美少年に興味のあるかたはぜひググってみてください。美少年ですよ(三回目)
さて本の方は三部作になっております。「悪童日記」「ふたりの証拠」「第三の嘘」全部読んだうえで眺めると、実にズバッとネタバレなタイトルであることがわかります。
読んだことがない方のためにネタバレ、できればしたくないなぁ…とっても面白い話なので。でも読んだ方と「ここ、こうだよね!!」というのを共感もしたい…うーんギリギリまで頑張りますね。
簡単なあらすじを。
まず前提として、双子の美少年が主人公になっています。1作目は戦時中、疎開先の寒村に預けられた2人がサバイバルする話。2作目は、離別した後の双子の片割れリュカの話。三作目は2人が再開する話…なのですが、最後にどんでん返しがあるんですね。このどんでん返し。ただ単に「えっそうだったん!?」ってびっくりして面白い、ってだけじゃないんですよ。
このどんでん返しは、主人公たちの苦しみゆえに起こるものなんです。つまり、戦争が家族を引きはなして、2人は不幸になった?…いやそんな単純な話でもない。
たしかに戦争のせいで2人はあらゆる辛苦を舐めさせられます。だけどどこか2人は軽やかなんですね。特に1作目は。つらい話のはずなのに、残酷なことばかりなのに、どこか冒険小説を読んでいるような爽快感がある。
そして2作目では、自分にとって掛けがえのない愛する人を失うというテーマが繰り返し出てきます。リュカは息子のマティアスを愛していたがために、やっちゃいけない殺人を犯す。恋人のクララは、国に殺された夫のことが忘れられなくて狂っていく。愛する妻を兵隊に殺された不眠症の老人に、姉を殺した弟…。そしてマティアスはなさぬ仲の父、リュカのことを心からは信頼できない。なまじ賢い子だからリュカが起こした殺人にうすうす気が付いている。それでも「僕、たぶんいつかリュカの子供になるよ」とけなげに言う。でも最後には、リュカは彼を失ってしまう。
たぶんリュカのマティアスへの「愛」は歪んでいる。本当の愛とは言えない。そうでなければあんな殺人はしないはずなのだ。本当に最初から歪んで狂っているのはリュカ。なぜ彼がそうなってしまったのかというと…。
そして3作目ですべての謎が暴かれます。「ああ、こういうことだったのか」と。2人は最初から、別べつに、大事なものを奪われていたんです。
「自分にとって、掛がえのないものを失う」。失ったあとも、生きていかなければならない。そうなるともう、生きることは苦しみでしかない。修復不可能。その苦しさがリアルに迫ってきます。とても手痛い感覚を味わうことができます。怖いね。
まったく救いのない終わり方なのですが、あきらめの中にどこか安堵がただよう、そんなラストです。ああ、そうだよね。そうすれば楽になれる。実に鮮やかでうまく落ちるところに落ちた最後の一文。
…は、ネタバレになっちゃうので別の部分を引用しますね
「当時の君は、まだずいぶんと若かったはずだね」
「まだほんの子どもでした。でも、ぼくは何一つわすれていません」
「これから忘れていくはずだよ。人生というのは、そういうふうにできているんだ。すべてが、時とともに消えていく。記憶は薄れ、苦しみは減少する。私は妻のことを思い出すけど、それはまるで小鳥か花でも思い出すような感じなんだよ(中略)はじめ私はその彼女を思ってここにきていたんだが、今では、生き残りであるジュディスのために来るようになった。もしかすると、きみには物笑いの種だと思われるかもしれないけどね、リュカ、私はジュディスに恋しているんだ。彼女の強さに、彼女の思いやりに、自分のではない子供たちに対する彼女の愛情にね」
リュカは言う。
「ぼく、それが物笑いの種だなんてちっとも思いませんよ」
「私の年でも?」
「年なんて些末なことです。本質的なことだけが大切なんです。あなたは彼女を愛しているし、彼女はあなたを愛している」
「彼女はね、夫の帰りを待っているんだよ」
「たくさんの女性が、行方不明になった夫をまったり、あるいは死んだ夫のことを悲嘆したりしています。でもあなたはいましがたおっしゃいましたね。″苦しみは減少し、記憶は薄れる″と」
不眠症の男は、まなざしを上げてリュカを見る。
「そう、たしかに私は、減少する、薄れるといった。しかし、消え失せるとは言わなかったよ」
(ふたりの証拠 より)
大きすぎる苦しみを忘れるにはどうすればいいんでしょうね。人類の普遍的なテーマでもありますよね。特に戦争は、そういった苦しみを起こしやすい。(ソフィーの選択なんかもそんな話ですよね)
いやぁ、本当にどうすればいいんだろう。そんな目に会ってしまったら。怖いの一言です。もしかしたら再起不能状態に陥ってしまうかもしれない。
でもその苦しみがあるということを知らないより、知っているほうがずっといい。備えになるじゃん…?
だからこの三冊は、私にとって大事な本です。