格闘ゲーム
帰りに気晴らしがてらゲーセンへ立ち寄った。相変わらずタケル師匠が初見プレイで格闘ゲー勝ち抜いたりしていたが、本人はあれが普通だと思ってるので突っ込まないでおいてやろう。さっきから、タケルの向かいに座ってる白ダウンジャケットに前後逆の赤キャップの金髪ロンゲが無限コイン投入を強いられている。顔がもう食い縛りすぎて悪魔みたいだ。恐らく不思議なくらいに勝てないのだろう。
「む。光一、このゲームはなかなか難易度が高いぞ。CPUが悪辣だ」
それ対人戦だぜ先生。そんなことも分からないほどの素人が何故に、対面のヤンキーに絶望の咆哮を上げさせているのか。本当に世の中ってのは不公平だ。あの手の格ゲーに座ってる輩は腕が立つ奴ばっかりのはずなんだが。
「…………はぁ」
スロットは振るわない。さっきからタバコくわえたまま立て肘突いて回すのだが、つまらない結果ばかりだ。何より、ガラス面に写り込んだ死んだ目の男がまずい。本当に無気力そのもの。
繊細な俺は、さっき言われた不愉快な言葉をずっと思い悩んでいるのだった。
――――疑問に思ったことは、ない?
「何なんだよ、“疑問に思う”って」
唾でも吐き捨てるように口にした。本当にまったく気分が悪い。異種生物の言語は俺には理解できない。そこで耳ざといタケルに声を拾われてしまう。
「何か言ったか」
「なんも言ってねぇ。あと、お前はいい加減その辺にしとけ」
「む?」
対面の男がブチ切れちまった。ケータイで仲間を呼んでいる。狩人と天使狩りが返り討ちカマしちまうのも問題だろう。不思議そうなタケルを誘導してとっとと店を出ちまおう。しかし、背後から4人組になったパツキンが付かず離れずでついてくるのだった。ゴチャいゲーセンを歩きながら金魚のフンのようについて来られる。
「あー、面倒くせぇ」
こんな日に限って面倒事が舞い込んできやがるのか。後方を堂々と振り返り、タケルもそろそろ事態を理解したようだった。
「……カツアゲか? 面倒だな」
分かっているような分かっていないような微妙なラインだったが。どうだっていい。クソ面倒くせぇ。店を出て徒競走に持ち込んじまえばこっちのモンだ。
「…………んぁ?」
が、店を出た瞬間に目の前に大男が立ちふさがる。巨人。筋骨隆々たる肉体に学ランにボロ布のようなキャップ。どう見たって時代錯誤な、いわゆる『番長』ってやつだった。そのガンダムみたいな目が俺たちを睥睨している。
「――貴様らか。俺の仲間をカモってくれた外道は」
「……………」
ここらで俺も冷めてきた。半眼で目の前の勘違いヤロウを睨めつける。背後からは5人組が追いついてきて、タケルは平常時と何も変わりなくて、ただボソリと意味深なコトを呟くだけだった。
「……光一、油断するな」
拳を鳴らす。タケルが警告してくるなんて、実に愉快なコトである。目の前の鋼鉄筋肉は微動だにしない。背後の奴らがキーキー言って来たが、俺と番長は無言で睨み合ったまま場所を変えることにした。ゲーセンの客たちは一部が何事かと訝しみ、ほとんどがまるで無関心のようだった。
――その時、客たちの中に三百眼の女が紛れ込んでいたことに俺はまだ気付いていなかった。




