学校の階段
きっちりと施錠して家を出た。春子さんはどこへ、いやどこのパチンコ屋に出かけていていつ頃帰ってくるのだろう。合鍵があるので特に問題はないが。
「……行くぞ」
「うん、ちょうどいい時間だね」
有紗が訪れてから30分、飯食って着替えて歯磨きして今だ。確かにこの時間帯なら、昨日みたく早すぎることも、いつものように遅刻することもないだろう。
マンションを歩く有紗の横顔がいつになく凛として見えた。さすが、学生だけあって手馴れてやがる。余談だが俺は学生だろうか。留年しないのが不思議な狩人パワーなので実に悩ましいところである。
道中は特に何が起きるでもなく、たまに見たことあるようなないような顔が通りすがっては有紗とおはよー言っていた。
おはよーおはよー。実に気怠い平和的情景。学校に近づくにつれ、次第に制服姿が増えていった。
昇降口で、靴履き替えようとしていたタケルに出くわす。
「ああ、おはよう2人とも」
「おはよー」
「光一はまた平常通り登校してきたのか。宇宙から謎の青色模様が降ってきて地表を宇宙嵐で覆ってしまわないか心配だな」
「…………」
靴を履き替えながら言葉の意味を反芻する。さすがタケルはなかなかに難しい言葉を使う。階段を上がりきる辺りでようやく、意味が全く理解できないことを理解した。
「……雨が降る槍が降るはわかるが、何だ、宇宙嵐て」
「なんだ知らないのか? 物体をすり抜ける青い粒子が波のような紋様になったものでな、空から注がれて地表に落ち、あっという間に全世界を覆い尽くしてしまった」
「SFか」
「いいや、俺が今朝見た夢の話だ」
階段から突き落としておいた。生徒をかき分けるUMAの声が遠くなっていって最後に一階に到着して轟音を上げた。
有紗は終始何かを考え込んでいたらしかった。しかし答えが出なかったのか困ったような顔でこちらに助言を求めてくる。
「……ねぇ光一、宇宙嵐って何?」
聞け。




