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放課後になって、タケルくんが電波を発症した。
「悪い、先に帰っていてくれ。朱峰さんに学校内を案内して欲しいと頼まれた」
そんなセリフをいつもの無表情のままで言うものだから、こいつは本気なのか冗談で言っているのかと疑った。俺、有紗、伊織の3名、それぞれカバンをぶら下げてタケルくんを見送った。
夕暮れ色に染まる教室内は閑散としていて、もうほとんどの生徒が帰ってしまっていた。
教室の外でタケルくんと合流した朱峰さんが、一瞬だけ俺を見て去っていった。
クソが。
「…………ワケわかんねーぜ。あんな奴ほっときゃいいのに」
「はいはい、そういうこと言わないの。っていうか朱峰さん、転入してきたばかりなんだよ? 何があったのか知らないけど、いいかげん和解しなよ、光ちゃん」
伊織さんにたしなめられた。有紗さんは終始無言だった。
†
ふと、両手に花状態であることに気付いたのだが、だから何だという結論に達した。
伊織と有紗だ。単にいつもの放課後と比較すればタケルが欠けただけ。むしろ有沙と伊織はそこそこ仲良くやっているので、必然的に俺があまり1となってしまう。
街なかで、置いてけぼりのように1人だけ後ろを歩いているとなんだか焦ってきた。おいどうしよう。おいどうしよう。
「な、なぁ伊織……」
「え? あ、光ちゃんまだいたの?」
「…………」
歩く言論暴力は絶好調だった。どうにも笑ってる最中に横槍を入れたらハイな返答が返ってきた、ということらしい。
話に入りづらい空気だ。
「――ん?」
自重でいまにも崩れ落ちんじゃないかってくらいボロい薬局の3件となり。
件の新しいパチンコ屋の前を通りかかったのだが、春子さんも警官もいない。これは千載一遇のチャンスではあるまいか。
「わり、また明日な」
「はいはーい馬鹿言ってないで、帰るよ光ちゃん。ほら、有紗ちゃんもなんか言ったげて」
「え? ああ、うん。だめだよ光一、パチンコやるならちゃんとお金持って行かないと。えっと、5千円で足りる?」
「「そっちじゃねぇ」」
見事に唱和してしまった。いや誰だって同じ事を思うだろう、本気で財布から5千円札差し出してキョトンとしてる幼馴染に俺は一抹の不安を禁じ得ない。
「…………な、なあ伊織、どう思ういまの」
「えーと……どうにも、普段から誰かさんがヒモやってんじゃないかなーっていう嫌疑をかけざるを得ないかな……」
「ねぇよ……集金なんてしてねぇよ……」
「ついさっき、光ちゃんが廊下で有紗ちゃんからお金受け取ってたって噂も聞いちゃったしな……」
「怖ぇよ……女子の情報網早ぇよ……」
「? 2人で何ヒソヒソ喋ってるの?」
過保護も度が過ぎれば病的だ。




