ソーシャルネットワーキング
「あ、おかえりなさい光一」
予令が鳴ると同時に教室に戻ると、有沙と伊織がケータイ片手にしゃべっていた。特に伊織は椅子の上であぐらかいて更に小さくなり、ドーナッツ齧りながらやけに集中している。
「……なにやってんだ?」
「あん? アメーバピグ」
なんて、視線も合わせてもらえず冷たく言い捨てられた。どうしてこう、ゲームやってる時の子供というのは無愛想なんだろう。
悲しみにくれる俺は、隙だらけだった伊織の頭部に優しく手を置いてやった。めしり。
そのまま、スイカを潰すつもりで握力を込めていく。
「おい……てめぇコラ、人と話すときは目を見て話せって教わらなかったのか、あぁん?」
「はぁっ!? ちょ、な、はぁ!? いた、いだだだだだ! ちょ、触らないでよニコチンくさい手で! あにすんのよ!」
「アメーバ? ピグ? ぴぐーぴぐーって豚か何かか? 飼われてんのかオマエ。」
「うっさい、SNS見ただけで憎悪丸出しにするなんてウザいよ正直。何なのぼっちなの? そんなに群れてるやつらが怖い? 自分で選んでボッチなくせにねー」
グシャリ、肉の潰れる音。言葉の槍が左心室を射抜いて背中へ突き抜け風穴空ける。華やかなパーティー会場で差し出した手を『平民風情が勘違いしないでくれる?』と無碍に断るように、伊織が俺の手を払いのけた。
俺と同時に、教室の隅で時間を潰していた目立たない日陰連中もかすかに反応したのが見えた。どいつもこいつも聞こえない振りしてやがるが、伊織の追撃は無差別に続く。
「大体さぁ。そもそも馴れ合いカッコ悪いとか言ってる連中ってさ、適応障害だよね。何なの? 無人島で1人で生きてるの? ああ、孤独な自分カッコイイ的な。人間関係から逃げずに人と対話することが格好悪いんだ? そうだよね、他人に依存してぬるくなるのは人間強度下がるよね、一体何と戦ってるんだろうね、本当は毎日食べるご飯さえ誰かに依存しているくせにねえ? そのザマでよく『俺は孤高だ!』みたいなノリでいられるよね」
「おい……よせ、やめろ伊織」
「――正直、中二病じゃね」
雄叫びが聞こえる。教卓の前で読書する振りして孤高ゴッコしていた男子が倒れた。床に倒れてのたうち回り、『グァアアア! 俺の中に眠る、人の体温を求めるだけど素直になれない心がああああ!』などとよくわからない悲鳴をあげていた。
その他、教室隅で悶えている奴ら数名、鬼を恐れるように静まり返った教室の中心には間違いなく伊織がいた。虐殺者は満足気に鼻を鳴らしてケータイいじりに戻る。覗きこんでみるが、何やら別のサイトを開いているようだった。
「……今度はなにやってんだ?」
「ツイッター」




