メール文化
酒屋のボロい自販機に立ち寄って、春子さんに頼まれていたビールを購入した。
自販機のショーケース部分に大量の蚊が入り込んでいて思わず身を引いた。本当ボロい自販機だ。いちおうビールの賞味期限を確かめてみたが、商品はちゃんと新しいものを入れてるらしい。
「――ん。」
せせっこましいつり銭排出から小銭を引っ張り出し、財布に突っ込もうとしたところで気が付いた。そういや、有紗から千円返してもらってねぇな。別に構わんが。もしやと思ってケータイを見れば、いつの間にかメールが入っていた。ごめん、千円返すの忘れてた。いまどこにいるの? と有紗。
「もう遅いから、明日で構わねぇよ――っと」
間違っても夜歩きだけはすんな、と追記して送信。絵文字ナシ。正しく男のメールだろう。俺としては、面倒なので電話連絡が好ましいのだが。
うだうだとポケットに手を突っ込んで歩きながら考える。文字で会話するというのは実に厄介だ。面倒すぎる。たまにどっちの意味で読めばいいのか分からなくなる。あと待ち時間うぜぇ。絵文字の意味が解読できない。伊織の馬鹿に嫌がらせでギャル字の長文メール送られたことがある。メソポタミアに帰れと返信してやった。
それに引き換え、電話連絡の実に分かりやすく簡潔なこと。スバラシイね。最高だね。みんなみんなキチンと電話で連絡し合うべきだね。
と、そんなところで耳慣れたデスシャウト――タケルから電話だ。何か動きがあったんだろうか。
「おうもしもし、どうした」
『早く来い』
一方的に通話が切断され、虚しい電子音を聞かされた。通話時間を見ると2秒で止まっている。
タバコの煙は乾いていて、ポケットの中の缶ビールは冷たかった。
「…………簡潔すぎだろ」
短文はメールで送れ。




