突入
「よう」
「ああ、いらっしゃい。」
有紗を家まで送り届け、すぐさま狩人本拠を訪れた。玄関口で待っていたのは蝶野。大穴空いた玄関は、少しだけ補修が進んでいた。俺は口の端を吊り上げ、狩人総括を皮肉ってやる。
「“赤羽”はどうした」
「ひとまずいまは自室に。これからタケルたちも集めて会議でも開こうという頃合いだ。立ち話も何だ、ひとまず入るといい」
促されるままに狩人本拠に足を踏み入れる。相変わらず静かな建物。階段を上がりながら、隣の蝶野のつまらない言葉を聞いた。
「正直、驚いているよ。朱峰さんのお墨付きだったんでね、よもや校内であっさり暴力騒ぎとは」
「へっ。だから始めっから言ってるじゃねぇか」
所詮は何も変わっていなかったということだ。人は人、バケモノはバケモノ、被害者は被害者。ただ一点、俺と同じ生き残りだった有紗が、記憶に残っていないながらも少しばかり危うい影響が残されていたというだけの話。
「ち……」
襲われて咄嗟に凶器を向ける。本人が自覚できない精神の奥底に、見えない暗闇が染み付いていたのだ。
「まぁ、経緯を聞いてみないことにはなんとも言えないがな」
「聞くまでもねぇだろ。処分でも考えてろ」
気に食わないような軽度の罰だったら、今度こそ潰し合うはめになるだろうがな。狩人総括の隣を歩きながら、横目に狩人本拠の内部をよく観察しておく。遠からず訪れるかも知れない決戦の日のために。俺は死んだ目で煙突と化す。
「あータバコうめー」
「おい、皮肉を言うのも結構だが多少は遠慮しろ」
だが断る。2階を通りがかった時、着物の座敷童子とすれ違った。小娘は俺を見るなりパチンコ帰りで金借りたがってるダメ親父を見るような面倒くさそうな目で言った。
「…………ゴキゲンじゃな。こんな時に」
「おう座敷童子、任務は捗ってるかい」
「ふっ、容易いものよ。もっともさすがに校内までは踏み込めんがな。お陰様で昼間は暇している。あと座敷童子と呼ぶな。死ぬがよい」
意味のないガッツポーズで別れを告げてやった。いっそハイタッチでもしてやろうかと思った。3階に辿り着き、足を止めぬまま腰の後ろから黒拳銃引っ張りだしてマガジンを換装。目と鼻の先に、『朱峰』と書かれた個室が見えた。
「気が早いな。調子に乗るのもその辺にしておけ」
「ざけんな。死ねよ」
迷わず3発打ち込んでドアノブを吹っ飛ばす。破裂するような轟音。背後の叫びなど知ったことではない。左手はポケットに突っ込んだまま、木製のドアを蹴り開け、踏み込んで銃口を前に突き出した。
「オラァ出てこい! クソ羽人間!!」
つまらない個室。どこぞの安ホテルのような一室の中で、ベッドに無表情の朱峰が、そして何故か、窓辺に俺の叔母さまが立っていた。
「あら光ちゃん、威勢がいいのね。元気があるのはいいことだわ」
「は――――春子さん……!?」
にこかに手を振られる。まるで海辺を描いた絵画のようである。冷や汗流しながら背後を振り返れば、蝶野が苦々しい顔をしていた。
「こんな事もあろうかと思ってな。お前ら、こいつを連行しろ」
「御意」
どこからともなく狩人が現れる。俺は殴りかかった。春子さんはいつまでもにこやかだった。




