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天使狩り  作者: 飛鳥
第1章
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道明寺カヤ


 長い階段。図書館のように無機的で、コンクリのブロックを積み上げただけの無表情。殺風景で余分がなくて実に殺し屋の棲家らしい。

 階下に降りるが、タケルの姿はなかった。代わりに見知らぬ狩人がいただけだ。

「よう、そこの。タケルのやつ知らねぇか」

「…………」

 無言で睨み返される。レッグウォーマーで口元を隠した、物静かな奴だった。腰から下げた二刀は隠す気がないのか。鋭利な鷹のような眼光が、俺を射抜いている。

「……あ?」

 何だろうこいつ。じっと俺の顔を見ている。ガンくれてるってやつ? なるほど、狩人にも俺のことを疎ましく思っている輩がいるってことか。

 目の前に降り立ち、まっすぐに見返してやる。

「何だ? 言いたいことがあるならはっきり言えよ。俺はよ、そういう面倒くせぇのは好かねぇ」

 間近で睨み返しても、石のように微動だにしない。まったく何の反応もないので立ち去ろうかと思ったその時、ようやくそいつは声を発した。

「タケルなら2階だ」

 渋い声。一応、協定関係の義理は果たしておく、ということか。

「……そうかい」

「浅葱」

 階段に足を掛けたところで止まる。今度こそ喧嘩を売られるのだろうという確信を持って振り返り、そいつをギリと睨みつけた。

「……サインをくれないか。妹が、お前のファンでな」



 2階の突き当りに談話室と思しき場所があった。その奥のほう、ソファの席でボードゲームに興じている狩人共の姿があった。タケルと――誰だ?

「む……なんだ光一。ついにチェスを覚える気になったのか」

「面倒くせぇ。オセロにしろ」

 くるくると器用に駒を回すタケル。俺は、ポケットに手を突っ込んだまま盤面を覗きこむ。タケル黒、対戦相手白。詳しいルールはよく分からんが、黒色が白色を駆逐して、生き残りに対して弱いものいじめを展開しつつあるように見えた。盤面の外から、やられちまった白色の駒共が恨めしそうに戦場を睨んでいる。

「ゲームは中断しろ。蝶野のヤロウがご指名だ」

「まぁ待て。これでチェックだが返す手はあるか、道明寺」

 タケルの手が最後の一手を動かす。それを見て対戦相手の少女が、老婆のように立て肘ついて諦観した。

「――はぁ。返す手も何も、これでゲーム終了じゃろう。どの駒がどこへ動いても王は死ぬ」

「ほう、そいつは素晴らしい状況だな。おいタケル、ついでだからこの狩人本拠もその、チェックとやらを適用しろ」

「そのゲーム、お前が白なら俺は黒だろう」

 確かに、天使狩りVS狩人という構図が本気で出来上がってしまえば、俺とタケルは最前線で互いに殺し合う関係となるだろう。想像したくもない。タケルの剣術スキルはキチガイだ。

「で、何だ光一。何か用か」

「総括がご指名なんだよ。例のミステリーを解決しろとさ」

 そこで、タケルがあからさまに嫌そうな顔をした。

「俺はシャーロック・ホームズではない。まったく、周囲に間違った期待を抱かれるとろくなことにならないな。これも兄貴のせいか……」

 ぶつくさと文句垂れながら、タケルちんが談話室をトボトボと去っていった。俺には疑問が残る。

「……兄貴のせい? どういう意味だ?」

「なんじゃ知らんのか。あやつはの、自分への期待や評価はすべて兄の七光りだと思い込んでいるらしい」

「はぁ?」

 何を寝ボケたこと抜かしてやがる。タケルの頭がきれるのは事実だろう。椅子に掛けた座敷わらしは、足を組んでまるで老婆のようだ。その手でナイトの駒を弄んでいた。

「…………まぁ、そういう節がある、というだけじゃがの。確かにあれの兄貴は優秀だったらしい。それこそいまのあやつよりも何倍も」

 そいつはすごいね。タケル以上となると少しばかり想像がつかない。

「ま。どうでもいいけどよ」

 用事は終いだ。執務室に戻って、進むのだか進まないのだか分からない推理に参加しよう。

 ――タケルは億劫そうだった。当然だろう。被害者がアレとは言え、いちおうは同学年の同じ学校の生徒だったのだ。学校内では平穏にやっていたいというタケルの思いは、少しばかり汚されてしまった。

 着物姿のやたら小柄な娘は、話し足りなさそうだった。

「なんじゃ。お主、友人の話なのに興味なさげじゃの」

「ああ興味ねぇ。タケルはキレ者だが、その自覚ができない馬鹿だ。小学校時代、天才的な知能を知恵の輪とルービックキューブで浪費して、遊びすぎてテストの点数は良くなかったっつーアホだからな。それは昔から変わんねーよ」

 もっとも、そのお遊びに連れ回していたのは俺なのだが。タケルは真面目すぎた。勉強なんぞバカのやることだ、という俺の嘘に本気で騙されていたのだ。

「そうか。まぁ仲良くしてやってくれ、浅葱光一。なにぶん苦労の絶えない出来すぎたエースだ。私たちにしてやれることは、少ない……」

 そんな憂鬱気な言葉だけが耳に残っていた。3階に辿り着いてから思い出す。座敷わらしみたいな娘・道明寺。あいつがタケルの後任の朱峰監視係か。

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