酒に酔った勢いで一戦を超えた
珍しく長い
2、3回の瞬きを経て「あっ」と少々間抜けな声を上げてしまう。
「あ、あの、すみません。判子置いてきたので撮ってきてもいい…ですか?」
すると数秒の「何言ってんだこいつ」という間があき、「どうぞぉー」と少し馬鹿にしたような口調で手でうながしてくる。
だがイラつきよりも羞恥心が圧勝したため小さい声で「すみません…」と言って俺は家の中へ駆け足で戻って行った。
先程の気分ルンルン状態ではなく、もちろん重い足取りで。
そう、俺は悟ったのだ。今回の一件は全て俺の早とちりなのだと。
異世界宅配便なんて言う痛い名前も痛い奴が考えついたんだろうし、異世界GATEなんて言いながらただのダンボールだったし…
概ねダンボールの中には百均に売ってそうなものが入っているのだろう。
まあ実は今回ネットでポチッたのは無料だから明らかにおかしいのだがどうせ他に高額なアクセサリー(百均)のようなものを売りつけてくるのだろう。
ちなみに俺にはそれを買ってしまう自信がある。
結構沈んでいる今の俺は恐らく超甘々である。もしかしたら借金だってしてしまうかも。
流石にそれは可能性としてはかなり低いのだが否定はできない。
その後判子をどこに押すかで少々キョドッてしまい、今度はほんの少し笑われたような気がした。
ハンコを押しいらないダンボール箱を受け取ったが
余分なお金を請求されるということは一切なく、正直安心した。
ふつうに宅配員も帰っていったようだし、ひとまず大丈夫だと思う。
再び重い足取りで元いた部屋へと戻る。
テレビを見てみると長時間放置していたためゲームのサーバーからキック(退出)されていた。
ダンボールを机の上に乱暴に放ると溜息をつきながら先程のゲームをもう一度やるのだった。
次の日の昼。
俺は相も変わらず夜中までゲームをし、いまさっき起きた。
これが俺のライフスタイルであり目を覚ましたあとはとりあえず歯を磨きに布団を乱暴にどけた。
すると
「うっ、さぶっ」
という少女の声が聞こえてきた。
咄嗟に「あ、ワリ」と謝ってしまったがこのまま布団に入っていると寝てしまいそうなので先程のミスを繰り返さないように布団をするりと横からすり抜けた。
大きな欠伸をしながら洗面所までフラフラしながら歩く。
たどり着くとまず水を流し両手に半分ぐらいの水を溜めた。それを顔に程々の勢いでぶつける。2、3回繰り返したあと歯ブラシを手に取り毛先を水で濡らして湿らし歯磨き粉を付ける。左上奥、そのまま上前歯、右上奥を途中に通り下も同様に磨く。最後に最初のように水を溜め、口に含み、口の奥まで水を行き渡らせたあと吐き出す。これも2、3回。
結構しっかりした習慣だと自分でも自負しているのだが、やはり、イレギュラーがあった。
最初の方に。
それはもう今日起きた瞬間に判明したことだ。
何故俺は少女と寝ていた?
頭痛を感じ左手を頭に当て右手で前にある鏡にもたれ掛かる。
あれ?何やってんだ俺。なんで女の子と?え?なに?昨日むしゃくしゃして誘拐した?いやそんな訳w
有り得るからヤバイ、2次元と3次元はしっかり区別しているはずだったが間違いが起きてしまったのか…
ごめんなさい、お父さんお母さん。ニートの親不孝者でありながら犯罪まで犯してしまったようです。
これはもう今すぐ警察に行って自首するしかないか…
「ふぁ〜あ、よく寝たわぁ」
俺は声がしたすぐ後方を勢いよく体ごと振り向き右手の人差し指でその声の持ち主に指を指し
「君誰だよォ!!??」
と叫んだ。正直苦情が来てもおかしくないレベルで。
そんな俺の叫びを至極どうでも良いというように彼女は「ん?」の可愛らしく首を傾げた。
「あ、おはようございます」
案外普通に答えられてオドオドしてしまうがそんな場合ではない。
俺の刑務所行きが掛かっているのだ。
「いや、名前じゃなくて! 君が誰なのか知りたいんだって!」
すると彼女は、かなり俺よりも低い目線から
「忘れてしまったんですか…? 昨日はあんなに楽しませてくれたのに//」
「頬を赤らめるな!? え、ちょ待って、俺マジで一線を超えちゃった感じ!?」
上目遣いプラス頬の紅潮によるダメージは俺の精神に大ダメージを与えていた。
「一戦を超えたと言うよりかは交えましたね。あれはもうとても興奮しましたよ?」
「交えるってなんだよ!? 超えるよりも上のこと!? そんなやばいことに手を染めてしまったのかよ俺は!?」
膝から崩れ落ちガチ泣きしそうになっている俺を彼女は
「えっ、あれってそんなにダメなことなんですか!? いやでも私が口外しなければいいんでしょう? なは安心してください! 私はぜったいに喋りませんから!」
と膝を折り同じ目線になった俺を慰めてくれた。
「本当か!? なんて優しいんだ君は…!」
彼女は顔を笑みで満たした俺の顔を見て安心した様子だった。
「ええ、もちろんですとも。あんなに楽しい娯楽が出来なくなるなんてやですからね!」
「ご、娯楽? そ、そんなに俺はウマかったのか?」
「ええ、非常に上手かったです。良ければ今からでも昨日の続きをしませんか?」
その言葉に胸を跳ね上がらせてしまう。
「い、今からか?」
「ええ、昨日は負けてしまいましたが今回は負けません。ぜったいに生き残ってみせます!」
「イき残ってみせる!? 俺達はそんな壮絶な闘いを繰り広げていたのか!?」
「昨日のあの素晴らしい闘いは、右も左も分からない私にあなたが手取り足取り教えてくださったから出来たようなものです。本当にありがとうございました」
「て、手取り足取り!?」
俺の童貞メーターはもう限界である。
頭から湯気が飛び出しそうである。いや飛び出してるか…
「さあ! 早く隣の部屋に行き、昨日の続きを!」
「……おうっ!」
ここまで来たらもうヤケクソだ。どうにでもなれ。
俺の部屋であるはずの場所を彼女は先行するとベッドに直行――ではなく。
FPSゲーム、昨日俺がやっていたゲームを慣れた手つきで起動させていた。
「……え? あの、何をするおつもりで?」
「なにって、昨日の続きです!」
「ん?」
「え?」
……
しばらく両者目をぱちくりさせ合うという謎の時間のあと、俺の昨日の記憶が薄らと蘇ってきた。
そう、俺は昨日の一件の後、酒を煽りいつもの如くゲームをしていた。
そんな中俺が貰ったダンボールはただのダンボールではなくガチで異世界GATEだったのだ。そこから出てきたのがこの少女。
そうダンボールから出てきたのだ。領収書と共に。
そしてその後何故だか一緒にFPSをやり楽しみ、一緒の布団で寝た、のだった。
そして今に至ると。
気付けば彼女は何故だが涙目になっている。
「私、そんなに下手でしたか……? ぐすっ、でも私あなたとまたシたいんです!」
あー、これ今思えば全部俺の思い込みだ……はは…
「いや、うん、よし! やろうか!」
俺が現実逃避に走ると彼女は
「ほんとですか!」
と目を輝かせた。
そこからは、昼飯――昼起きるので朝飯――を食うのも忘れて大人と少女がガチでゲームをするという謎の時間がすぎるのみであった。