2:おにーちゃんモテモテ
妹の部屋のドアは開きっぱで、
黒柄のシーズー、小次郎が入って来た。
人の気配に気づくとベッドに飛び乗り、
ワンワン吼えた。
当真が見ると、犬の足元に携帯が転がっている。
「ありゃ…」
のそのそと出てくる当真に、
嬉しそうに絡みつく小次郎。
「そそっかしいよねぇ…
届けてきてよ…
あ。いいや、そのうち帰ってくるか…」
一方、公園の亜希子もその事に気づいた。
「あ! ないない
持ってきてない… あっちゃ〜」
『でも あたし なっちゃんの告白に答えてないんだ…
だから、まだ保留だよね…』
彼女はそう自分に言い聞かせ、
ジーンズのお尻をパンッとはたき
着いてもいないゴミを払った。
一方奈津美は自宅のマンションで
毎日帰りの遅い母のため
夕飯をこしらえていた。
よれたニーハイソックスを直し、
流行ってる歌の替え歌を口ずさんだ。
「〜間違ってる?
親友の彼に告白〜
でも 好きなんだもん
だって 好きなんだもん
あなたが誰かに恋をするのは運命
あなたが誰かに告白されるのも運命
あなたが誰にも好かれないのは
少し考えた方がいい〜♪」
大きな銅鍋でおでんを煮ながら
大好きな大根のを味加減に満足し、
1人でごはんを食べる奈津美だった。
そして、「なるようになる 頑張れ」
と、ロンドンで暮らす、
父の口癖をまねてみた。
夜が星を瞬かせ、
月は天使のように微笑んでいたが、
答えの無い数式を解こうとした少年は、
悶々とし朝を迎えた…。
文弥家の朝は早い。
一睡もできず洗面所で歯磨きしてる当真に、
ひょいっと顔を覗かせた亜希子。
「お、おっはよぉ〜 あにきぃ〜
あのね昨日の話しのつづき…」
兄はドキっとして振り向いた。
「あ。あにき…あ、あのね」
「うん…」
「あたしね…なっちゃんに…
なっちゃんから
なっちゃんより… あたし」
「うん うん うん」
当真は妹の一言一句に
うなづき真っ赤な目で見つめ、
永遠の時を感じた…。
「あたしね あたしぃ〜
あたし あたし あたし!
なっちゃんより
おにーちゃんが好き〜!」
「ゲボッ!」
歯磨きのうがい水を詰まらせた当真。
「あ! 違う ちがぅ〜
そーじゃなくて〜〜」
亜希子は思ってもいない事を
口走っていた。
「うわぁあああ〜〜〜〜〜」
脳天に雷が落ちたような衝撃が走り、
ふたり同時に叫んでいた。
ゲボゲボのた打ち回る兄。
ペタンと女座りしアゥアゥと、
遠くを見ながら口をパクパクさせている妹。
そこへママ、絹代が小次郎を抱えやってきた。
「アキは早くご飯食べないと
朝練に遅れるわよ。
当真は昔は痩せていたのに、
たまには朝飯抜きなさい
ふたりとも 何してる?
さっさと動けぇ〜」
子供たちがとんでもないことになってることに
気づいていないママは、
仔犬を当真に渡しトイレに入った。
すると今度は朝風呂を浴びたパパ。芳郎が
裸のまま出てきて、
座り込んでる娘の頭の上にここぞとばかりに
「ちょんまげ〜」っと、チンコを置いた…。
いつもの罵声を期待したが、
反応の無さに動けずにいると、
トイレからママの手が出てきた。
「お。 ママ〜朝からかい?
好きだなぁ〜 ハイどうぞ」っと、また
チンコを置いた…。
「……ちがーーーぅ!
パパァーーー 何してるのぉ〜
紙とって 紙!」
「へいへい」っと、
固まったまま動かない子供たちに割り込み
トイレットペーパーの買い置きを
ママに渡し、
トイレから外の様子を伺った。
「ねぇ ママ あの子らなんかあった?」
旦那の尻を目前に見せられてるママ…。
「パパ…
入ってきちゃだめでしょ…
コラァ〜〜〜!!!」
「あ。ごめんごめん わはははは」
狭いトイレからママに蹴り出されたパパだけが、
妙な空気の変化を読んでいた。