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産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 13 シロアリ塚  作者: 石渡正佳
ファイル13 シロアリ塚
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リソイル

 湾岸汚泥処理センターは建設汚泥の流動化処理で急成長した会社だったが、ゼネコン不況で資金ショートに陥り五代産業の傘下となって再生していた。都心から近いインターの好立地で、周辺は産廃団地と行っていいほど産廃業者、スクラップ業者、残土業者などが集積していた。伊刈のチームを出迎えたのは工場長の曽我部だった。もとは専務取締役だったが五代産業に吸収されて非役になった。親会社となった五代産業より処分場の規模はずっと大きく、施設もしっかりしていた。工業団地を一歩出ると住宅地が広がっているせいか、粉塵対策にも気を使っているようだった。

 「ここはどんな処理をしてるんですか」伊刈が口火を切った。

 「今は汚泥を薬注固化してから破砕造粒し、リソイルを製造しているんだ」

 「再生セメントですね」

 「まあそんなところだね。うちはもともと流動化処理土を作ってた。特許もあったんだが、そんなもん関係なくマネされてね」

 「用途は」

 「埋め戻し材がほとんどだ」

 「それじゃ残土でも同じですね」

 「リソイルは透水性が低く崩れにくく草が生えにくいという特徴があるんでね、法面の叩き材に使ってもらってるんだ。残土とは違うものだよ。ちゃんと売れる商品だ」

 「思ったよりしっかりした施設ですね。こんなにちゃんと処理ラインがあるとは思いませんでした。余所は素掘りの穴だけだったりしますよ」

 「ひどいとろこほど儲かるのが汚泥屋だからな」

 「どうしてですか」

 「汚泥の施設はすぐに目詰まりするんだよ。泥にセメントが入ってるから一日休めば固まっちゃう。だから掃除してる時間のほうが長いんだ。施設がなければ目詰まりもしないだろう」

 「別の会社ではここと同じものを再生ズリと呼んでましたね」

 「ズリなんかとリソイルを一緒にされちゃ困るな」

 「たしかに品質は安定しているようですね」

 「当然だよ」

 「流動化処理はもうしていないんですか」

 「あのころはよかったねえ」伊刈の質問に曽我部は顔色を変えた。

 「そのあたりのこと説明してもらっていいですか」

 「昔の汚泥処理は固化剤をでたらめに混ぜてガチガチに固めてからクラッシャーで破砕するだけだったんだが、流動化処理は固化剤の割合をコントロールして柔らかく砂目状に固めるんだ」

 「違いはなんですか」

 「固化剤が少ないのでアルカリ度が低いし、破砕しないから粉塵が出ない。一番いいのはクラッシャーで割ったときにできる角がないから配管の埋め戻しに使っても金属に傷をつけないことだね」

 「商品性が高いということですね」

 「ひところはトン一万円で売れたこともあったよ」

 「下手な山砂より高いくらいですね」

 「そうだな」

 「そんなに儲かるなら汚泥はみんな流動化になってしまったんじゃないですか」

 「そうでもないんだよ。都心の地下鉄工事がもう終わりだろう。うちは地下鉄の配管の埋め戻しが主力だったからね。需要が細って売れなくなったんだ。それに流動化がはやってライバルも増えたしゼネコンが現場で始めたしな」

 「現場で?」

 「これを見てみな」曽我部は大手ゼネコンが作成したパンフレットを見せた。

 「これはただのコンクリートミキサー車じゃないですか」

 「ここに汚泥と固化剤を入れて混ぜるとうちに来なくても流動化処理ができるんだよ。コンクリートと汚泥とでは粘度が違うから特殊な羽に変えるらしいけどな。これが始まったときうちは終わったんだ。あれを見てみな」曽我部は工場のどまんなかのプラントを指差した。稼動していない様子だった。

 「巨大なミキサーって感じですね」

 「あれを作ったとたんに仕事がなくなった。それで倒産だよ。施設を作らないでゼネコンと同じようにミキサー車を現場に持って行くって案もあったんだけど、社長が工場でやるほうが品質がいいんだって言ってきかなくてね。問題はそれより地下鉄工事だな。またどっかでトンネルを始めてくれればあれも動くんだけどな」

 「いろいろ地下鉄の計画はあるんですよね」

 「だけど金がかかるからな。一メートル掘るのに何億だろう。情けない話だけどそれだけの金がもう日本にはなくなったんだよ。中国じゃ北京だけでも毎年5路線増えてるってのになあ」

 「需要がないのにどうして五代産業はリソイルの新しい工場をまた建てるんですか」

 「あそこは販路がうちとは違うんだ。やっぱり経営ってのは品質より販路なんだな」

 「リソイルを売っていることを書類で確認したいのですがいいですか」

 「いいよ」

 伊刈の言葉で書類検査が始まった。五代産業と同じで曽我部も要求した書類はすべて帳簿ごと原本で持ってきた。

 「こちらの取引先は小口が多いですね」伊刈は売掛帳を見ながら言った。

 「うちはもともとノーカラーだったからね」

 「つまりヤクザじゃないってことですか」

 「そういうこと。どっかの親会社と違ってね。だから営業をまめにやらないとやっていけなかった。コネがないからね」

 「汚泥の会社でノーカラーは珍しいんですか」

 「汚泥を出す基礎屋からしてそういう筋になってるだろう。だからノーカラーでやるのはしんどいよ。だけどそんなところと付き合いたくないって会社もあるからね。うちはノーカラーの強みで勝負してきたんだ。それも昔の話だけどね」

 「残土処分場に出してるものはないみたいですね」

 「そんなもったいないことはしないよ。うちのプラントはけっこう人件費や電気代ががかかるんだ。固化剤をどかっと入れてユンボでかき混ぜるだけってのとは違うよ」

 「それって親会社のことですね」

 「オフレコで願いますよ。首が飛ぶからね。あの会社はうちの技術を盗んで新しい工場を建てるんだからな」

 「同業者からの汚泥もけっこう受けられてますね」

 「うちは余所のように不法投棄は絶対ありえないから安心感があるんだろうな。困ったときはよく相談に来るよ」

 「同業者からの受注は再委託になることがありますから気をつけてください」

 「そうかわかった」

 「せっかくいい仕事をしてるのにつまらない難癖をつけるつもりはありませんよ。今日はたいへん勉強になりました。これで失礼します」

 「あんた役人には珍しいことを言うんだな」

 「思ったとおりをいうように心がけています。いいものはいいですから」伊刈は産廃業界にもM&Aが進行している現実を初めて目の当たりにした。

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