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産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 13 シロアリ塚  作者: 石渡正佳
ファイル13 シロアリ塚
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復旧工事

 翌日から陣内は復旧工事に着手した。伊刈との約束どおりに崩落防止措置を講じ杉苗を植林し境界に排水路を穿った。道路の舗装の復旧には数日を要した。

 「すごいですね。どうしてこうなっちゃうんですか」夏川が感嘆した。

 「男の約束ってやつかな」

 「陣内が約束を守るとどうしてわかったんです」

 「法律がない連中だからこそ約束がすべてなんだ。絶対に破らないとは言わないけどね。これは法律じゃないんだ。人間と人間の信用だよ」

 「つまり伊刈さんを信用したってことですか。悪いようにしないって言ったから」

 「そうかもな」

 「許可証の変造のことを最後まではっきり言わなかったのはどうしてですか」

 「切り札にとっておいたと言っただろう。だけど使わずに済んだよ。陣内にも面子があるだろう」

 「結果的には七百台入れさせちゃったんですよね」

 「持ち込んだ残土はそんなに悪いものじゃなかったし、壊れた道路が直ったんだからいいじゃないか。いろいろあったけど結果オーライだろう。環境の仕事は最高にうまくいって0点、つまり振り出しに戻って何もなかったことにするだけなんだよ。土木みたいに道路や橋が残るわけじゃない。環境はランドマークにはらない。なんにもなかったことにして忘れてもらうのが仕事なんだよ」

 「それってちょっとむなしいですね」

 「ところで班長、昨夜のことなんですけど」

 「ああごめん。飲み代精算してくれたんだよな」

 「そんなのビール一本だけですから。それよりナオミちゃんとどこ行ったんですか」

 「彼女道路で寝ちゃったんだよ、だから」

 「だからどうしたんですか」

 「尋問みたいだな。タクシーでアパートの前まで送ってったよ」

 「前までですか」

 「もしかして彼女に関心あるの」

 「そうじゃないですけど班長が送り狼だなんてことになると、これからの仕事に差し支えるかなと思って」

 「だったらリンカちゃんに聞いてみたらいいいよ。親友なんだからなんでも知ってるだろう」

 「もちろんそうしますが一応本人の証言もとっとかないと」

 「わかったよ。ほんとのこと言うよ。アパートの前じゃなくマンションのドアの前まで送ってった。学生向けのアパートじゃなくてすごい広い部屋なんだけどね、彼女同郷の子とルームシェアしてるんだ。親が一緒に住んでくれって頼んだらしいよ。ルームメイトのユカちゃんがちょうどいたから介抱を頼んで帰ったよ。ユカちゃんもなかなかチャーミングでさ、そのうちセイラにも来るんじゃないか」

 「それはなんかほんとうらしいですね」

 「ほんとだよ」

 「班長の弁明はわかりましたよ。だけどくれぐれも抜け駆けはなしですから」

 「夏川は誰がターゲットだよ」

 「それは企業秘密です」

 「まあいいや。一つだけ忠告していいか」

 「なんですか」

 「ターゲットは誰でもいいけどぶれないことだよ。気が多い男はだめだ」

 「大丈夫です。決めてますから」

 「夏川先輩、ムダ口やめて帰りましょう。技監がきっと待ってますよ」喜多がいつになく大人の発言をした。

 現場が一件落着になったので仙道と伊刈は高崎市議の事務所に報告に行った。

 「ご苦労様。やっと終わったようね。やっぱり議会が残土条例を作った成果が出たかしらね」

 「議会ですか?」さすがの仙道も拍子抜けした顔をして市議の顔を見返した。

 高崎市議は一言のお礼も言わなかった。環境事務所に借りを作ったとは思っていないのだ。地元の住民も市議が市を動かしてくれたおかげで早期解決ができたと喜んでいた。市議の株が上がり環境事務所の株は上がりも下がりもしなかった。伊刈の言ったとおり最高にうまくいって0点が環境の仕事だった。

 伊刈は当分セイラに顔は出せないと思っていた。夏川に説明したことは全部でまかせで一つの真実もなかったからだ。ナオミがルームシェアしているのは本当だったが、部屋には送って行かなかったのでルームメイトの顔は知らなかった。たくさんの詐欺師まがいの連中と付き合ったことでいつのまにか根も葉もない嘘が上手になっていた。それにリンカが親友の秘密を守ることもわかっていた。

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