表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
中島戦記  作者: 大きな鯨
5/11

ニナ・シーベル

 恥ずかしく泣き腫らした後、中島は数週間ぶりに水浴びをして、取り上げられた服に着替える。

 そして、王様から直々にお裁きを頂戴する事になったため、謁見の間にて跪いていた。



「これより、そなたの処遇を言い渡す」



 大臣っぽい人が、白々しく決まり文句を言い放つ。



「ニナ・シーベルの元にて精霊魔法を学び、我が国の兵としての役を課す」



『え? 魔法を学ぶ? 兵役のみ?』


 生温いお裁きにも程があった。

 学びも、兵役も、こういった世界では罰ではないだろうに……。



「ニナ・シーベル」



 拍子抜けする程、淡々と裁きは終わり、大臣がニナ・シーベルと言われる人物を呼ぶ。



「こんにちは。これから精霊魔法を教える事になったニナ・シーベルよ。よろしくね!」



 名前を呼ばれ前に出たのは、地下で助けてくれたお姉さんだった!



「こっこつ、こちらこそ! よろしくおねがいします!」



 たどたどしくなってしまった挨拶に、ニナさんは微笑みで返してくれた。


『まじか! こんな綺麗なお姉さんに精霊魔法とか、よくわかんない物を教わるのか……ヤバイ……今までの不幸とのギャップがヤバイ!』


 中島は獄中生活から一変して、美しいお姉さんとの特別レッスンというギャップに昇天していた。



「じゃあ、行きましょう!」


「はい!」



 そのままニナさんに連れられて謁見の間を後にすると、終始ニヤケそうになる顔を抑え、感謝の言葉を伝える。



「あっあの。ありがとうございました!」


「んーん、どーってことないわ」



 どこか上の空のニナさん。そんなニナさんの態度に、これからどこに行って何をするのか不安になってしまう。

 牢屋から救ってくれた恩人だというのに……。

 でも、不安になろうが関係ない。このまま何も恩返しをしないってわけにもいかないだろう。

 たとえ奴隷のような扱いを受けたとしても、あの地獄のような牢屋よりは何倍もマシなはずだ。


 ニナさんは少し機嫌が悪そうなので、黙ってついていく事にした。

 幾らか歩いたところで外に出ると、ずっと気になっていた事実が判明する。

 中島はお城の中に居たらしい。


『一体どうやったトイレからこんなところまで一瞬で来れるんだよ』


 諦めの悪い中島は、まだ、可能性を否定していた。

 しかし、精霊魔法とやらが、もし本当に魔法であれば、異世界転移を信じるしかないだろう。



「さ! ここで精霊魔法の練習をするわよ!」



 さっきとは打って変わり元気いっぱいのニナさん。気分の切り替えスイッチがどこらへんにあったのかサッパリだった。



「はい! ……で、どうすればいいですか?」


「じゃあ、私の真似してみてね! プロテクション!」



 ニナさんが出した手の平を中心に、白い光の壁が出現した。



「じゃあ、やってみて!」


「え? いや、え?」


「ぐちゃぐちゃ考えない! 男の子ならビシっとやってみて!」


「あっ、はい!」



 ニナさんは職人気質のようだ。考えるな……感じろ! って事らしい。

 中島は、今見た光の壁を思い浮かべ、前世……前の世界で憧れていた魔法の発動を試みる。

 イメージは完璧、いろんな異世界ファンタジーを読み尽くした中島は、チート勇者のそれを完璧に再現するよう自分の脳に働きかける。



「プロテクション!」



 元気よく発声し、右手を前に突き出すと、ニナさんの数倍大きな光の壁が出来上がる。



「うおぉ……マジか……スゲー」


「ふふふ……。やっぱりね……」


「やった……やりましたよ! ニナさ……」



 ニナさんに褒めて貰えるかと思い、そちらを向くと、ニナさんは下を向きながら不敵な笑みを浮かべていた。



「あの……ニナさん?」



 恐る恐るニナさんを呼んでも、心ここに在らずで聞こえていないようだ。

 不敵な笑みを浮かべたまま、ブツブツと独り言が聞こえてくる……。


『うん、そうだよね。そうそうきゃっきゃうふふなステキ展開にはならないよね。わかってた』


 美人の独り言は、別の意味で絵になるな。なんて考えながら、ニナさんの帰りを待っていると……



「君の名は?」


「中島です!」


「ナカジマ、次! ビルドオーラ!」



 ニナさんが詠唱した途端、全身が白く光始める。手はお腹のあたりでサッカーボールを持ったようなポーズだった。



「ビルドオーラ!」



 俺も負けじとその上を行くように、完璧なイメージと厨二心全開で詠唱する。

 すると、全身から光が放たれ、衝撃波のような風圧が辺りを揺らす。全身を覆う分厚い金色の光は、上昇するように激しく揺らめいていた。


『金髪には……なってないか……』


 イメージは出来ていたが、全てを再現する事は出来なかったようだ。



「くくく……。あーっはっはっは! 凄い! 凄いぞ! ナカジマ! 私の目に狂いは無かった!」


「あははは……はぁ……」



『僕の目は狂っていたようですがね……』


 ニナさんがおかしくなってしまった……。

 さっき誓った恩返しの件はどうしたらいいだろうか?

 ニナさん嬉しそうだし、反故してしまっても問題ないかもしれない。


 中島のステキな妄想はぶち壊され、お姉さんの暴走がぶち込まれる形で、特別レッスンは始まってしまった。

掴もうぜ!フフフンフンフフン!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ