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中島戦記  作者: 大きな鯨
3/11

投獄

 テッテレー(効果音)


 中島の脳内で響きわたるその効果音は、建物の角を通過するたびに再生される。

 今の中島をまるっと救うその福音は、自分の脳内だけで虚しく響いていた。

 そして、いつしか兵士達の歩みも止まり、思った通りの場所にたどり着く。


 そこは、昔ながらの牢屋だった。

 まず気になったのは臭いだ。酷い異臭、牧場の牛舎よりも酷いそれを嗅いだ瞬間、毛穴が塞がり鳥肌が立つ。

 臭いだけでは無い。湿度が高い。ジメジメとしたその空間は、ベタベタと体に異臭を貼り付けていた。

 いくら生理現象で抗おうとも、室内に入ってしまえばそれまで。時間を追う毎に異臭を付着させていく。


『これからここで、いろんな事をされてしまうのだろう……』


 グラスハートの中島は、基本的にマイナス思考だ。

 拷問、尋問、拘束……いろいろ思いつくことはあるが、一番の心配事は、童貞を卒業する前に貞操を奪われてしまうんじゃないか? なんて冗談のような話だ。

 しかしながら、状況がそれを否定しない。

 異臭を放つ獄中で行われるその光景は、想像を絶するものになるだろう。


 福音が脳内を飛び出し、外界から聞こえてくれと本気で願わずにいられない。

 中島の不安は、限界を軽々と突破していた。


 そんな不安を抱えながら牢屋の前で大人しく立っていると、兵士達はどこからか持ってきた囚人服を机に置き、手を縛っていた縄を解いていく。

 そして、これに着替えろと言わんばかりに囚人服を指刺しながら中島を見る。

 それは、とてもじゃないが着替えたくはないような代物だった。

 しかし中島に拒否権は無い。震える指でボタンを外し、下着だけになると、薄汚れた囚人服に袖を通す。

 服が肌に触れる度に、そこから鳥肌が立ち、全身が拒否反応を起こす始末。

 ペットボトルの回し飲みすら出来ない中島には、非常にハードルが高い仕打ちだった。


 ガチャン!


 兵士は着替え終わった中島を中に入れると、乱暴に牢屋の扉を閉めてどこかへ行ってしまった。


『……』


「牢獄」それは決して誇張の強い過大評価な名前ではなかった。

 世界が唐突に暗く、狭く、音を無くしてしまったことで、より強くそう感じてしまう。

 腐臭と異臭が混ざり合った強烈な臭いは、暗く静かになった事で嗅覚を更に刺激し、ジメジメとした環境は、どこに居てもまとわりつく。


 兵士達が去った後でも心が休まる事はない。

 恐怖と異臭と、自我ですらも、心を蝕む悪魔となって、中島の心をじわじわと疲弊させていた。


『……これじゃ、死んだ方がマシじゃないか』


 現代っ子の生易しい精神では、たった数分ですら耐えられない。


『……出られるのだろうか?』


 いつ解放されるかもわからない牢獄の中で、そんな事を夢見て暮らすには救いが無さすぎる。

 叶わない夢は希望とはならない。

 心を蝕む加速装置となって自分を嘲笑う。


 今は、いくら何かを考えたところで、牢屋から出る事は叶わない。

 中島には、檻を壊す力も無ければ、兵士達を騙す知恵さえも無かった。


『……寝るか』


 この状況でやれる事は少ない。その中でも、一番良い選択肢が睡眠であった。

 何もかも忘れて怠惰に惰眠を貪る事が、牢獄の中では唯一の救いだろう。


 中島は拒否する体を強引に床へ押し付け、小さく寝転がると、ゆっくり瞼を閉じる。


『……』


 やがて、疲れを癒すように意識は遠のき、一時の幸福に包まれていく。

中世の牢屋について色々調べましたが、ヤバイっすねー。

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