魔神、月に吠える
諏訪湖の御神渡りがあったと聞いて書いたものです。
え? どうしてって? だってこのタイトルを連想したんだもの。
2021.5.2 秋の桜子さまからFAいただきました(^^)
月が冴え冴えと輝いている。
百年前と変わらない、美しい光だ。
あの光を見ていると、誇り高き神狼族の血が騒ぐ。
我は、かつて神狼族の覇者だった。
縄張りを荒らす人間に立ち向かい、多くの敵を屠る青銀に輝く美しい神狼族。
風と氷の魔法を使い、冷気のブレスを吐く我を人間共は「魔神」と呼び恐れたものだ。
魔神と呼ばれるようになった我の前には、我を倒して名を上げんとする者や、我を人に徒なす者として命を狙う者などが次々と現れ、我は毎日のようにそやつらを引き裂いてきた。
そして、常勝無敗の我にも、遂に敗れる日がやってきた。
「勇者」と名乗った人間。煌びやかな鎧を身に纏い、妙な輝きを宿した剣を手に、数多の魔法を放つそやつは、我の魔法もブレスも凌ぎきり、逆に炎の魔法で我の身を焼き、輝く剣で我が身を斬り裂いた。
傷だらけになり地に伏してもなお、全身の魔力を振り絞り攻撃を弾く我に手を焼いた勇者は、我の周囲に結界を張って封印の秘術を施し、身動きできぬ我は抗しきれなかった。
力と肉体を封じられ、魂だけ難を逃れた我だったが、新たな肉体を得るまでには百年もの月日を要した。
ようやく得た新たな肉体には、かつての力強さは影もなく、封印の影響か、冷気に対して異様に弱くなっていた。氷を友とする神狼族の我が、だ。情けない。
勇者への恨みは尽きないが、考えてみれば彼奴は既に寿命を終えているはずだ。
彼奴は死に、我は生き残った。ならば、勝ったのは我の方だ。
勝者たる我は、いずれ力を取り戻し、かつての縄張りを取り戻さねばならぬ。
あの美しい満月に誓って。
誓いの遠吠えを響かせよう。
満月に向かって吠えるのは、神狼族の神聖なる誓いの儀式だ。
満月の魔力を身に受け、我が魔力と変えて想いを天に満ちさせるのだ。
人間共よ、恐れ戦け。
我が再び魔神として返り咲くその日を待つがいい。
聞け、我が声を!
「うにゃあぁぁん!」
すみません。コメディです。
御神渡りがあったと聞いて、「帰ってきたウルトラマン」の「魔神 月に吠える」という回を思い出し、「魔神、月に吠える」というかっぽうを上げました。
そうしたら、「新作のタイトルかと思った」と言われたので、つい、じゃあ書いてみようか! なんて思ってしまい。
なぜかこういう肩すかしなものが降ってきたのでした。
顎を落としていただけたら、大成功です。