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二股
「あたしとあの女、どっちが好きなの。」
触れずに紙が破れるのでは、そんな剣幕で迫ってくる。
「どっちと言われても困るなあ。」
男は目を合わせないよう、たびたび顔をそむけるが、女はその都度、視界に入った。
「あたしの料理が誰よりもおいしいって言ったじゃない。」
女は少しトーンを下げた。
瞳が涙で溢れそうだ。
「君の料理は誰よりもおいしい。その言葉に嘘はない。」
「それじゃあ、その女と別れるのね。」
「それとこれとは別の話だ。彼女は誰よりも美人なんだ。」
「なによ、サイテー。堂々と二股する気なの。」
女は鼻息がかかるまでに男に詰め寄った。
「安心しろ、二股じゃない、三股だから。」




