普通
「私、好きな人がいます。」
僕の恋は本を閉じるように簡単に終わった。
「どんな人なの。」
女々しいのは分かっている。
でもこのままでは終わりたくない。
『どんな人』ではなく『どんなやつ』と言うべきだったか。
「普通の人だよ。」
普通ってなんだろう。
ここまでくるのに随分と時間が掛かった。
それなのに普通に終わるなんて納得できない。
「普通ってなんだよ。」
語気が荒くなってしまったことは、彼女が少しおびえた表情をしなくても分かっている。
「普通は普通だよ。君みたいに背も高くないし、頭もそれほどだし。」
好きな人に褒められているのに、これほどまでに嬉しくないなんて。
「私なんかじゃなくても、君のこと好きな女の子はたくさんいるよ。君と話したら周りがうるさいくらいにね。」
そんな言葉は聞きたくない。
「あなただけに好きになってもらいたかった。」
言えなかった言葉は、当然彼女には届かなかった。
「普通ってなんだよ。」
しつこいのは分かっている。
「普通は普通だよ。そばにいるだけでホッとするんだよ。」
そんなの望んでも無理じゃないか。
普通ってどうやるんだよ。




