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恋愛綴り  作者: 茶太朗
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文学青年

 僕は文学青年だ。

 などと言いたいところではあるが、恐れ多いにもほどがある。

 赤トンボがアゲハチョウだと名乗るくらいに恐れ多い。

 勿論、赤トンボもきれいだし、それはそれで良い点が多いのは分かっている。

 もっとも比べること自体が間違いであると言われれば、否定はできない。

 とりあえずは、文学青年になる予定の者とだけ言っておこう。

 今は孤高の自宅警備員であるが。


 渾身の長編小説は時代物である。

 というか時代小説しか書いたことがない。

 なぜって、好きだからということもある。

 でも何より先陣を切るのは、経験則によるものなのだ。

 ようするに世間知らずというやつだ。

 恋愛小説を書こうにも、恋愛経験が晴れ渡る5月の雲のごとく皆無なのである。

 友達だっていやしない。

 いつだって孤高の旅人、人生という岐路を彷徨う迷い人なんだ。


 規程枚数よし、梗概よし、指差し確認ぬかりなし。

 マチ付きの封筒に入れて封をする。

 郵便局は歩いて2分。

 そよぐ風が頬をなでる。

 そよぐは戦ぐ、今の気持ちも戦いだ。

 いざ行かん、希望を運ぶ郵便局へ。


「いらっしゃいませ。」

 心地好い声が僕に届く。

「簡易書留でお願いします。」

 4カ月振りの交流である。

 無論、両親はノーカウントだ。

 よく見ると、肩までの亜麻色輝く少女の面差しを残した女性だ。

 女性、仮に女神と呼ぼう。

 女神は口角を上げると、優しく僕に微笑んだ。

 僕もつられて微笑むが、上手に笑えているだろうか。

 次回は恋愛小説でも書けるかもしれない。

「簡易書留ですね。」

 女神の声が僕の胸に響く。

「宛先は、時代小説新人賞公募係で間違いありませんね。」

 女神の声は郵便局内に響き渡った。

 郵便局の中には3名ほどの他人がいた。

 そのすべての目線は僕に集中した。

 顔から火が出るなんて古典的な表現は嫌いだが、今はそれ以外に例えようがない。


 次は歩いて15分の郵便局にすると、固く心に誓ったのであった。

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