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深夜の魔力
「クシでとくように髪を切ることができるぞ。」
筋骨隆々の外国人が得意げに髪を整えている。
「誰でも簡単、しかもお値段はたったの六千円だ。」
異常なまでに流暢な日本語だが、特に違和感は感じられない。
「すごい、これ欲しい。」
深夜のテレビ通販番組を見ていると、何もかもが魅力に感じてしまう。
「これさえあれば、日差しが強い時でも運転がラクラクだぞ。」
「すごい、これ欲しい。」
ただのバイザーなのに欲しくなる。
深夜の魔力だ。
「そうだ、この深夜の魔力を利用しよう。」
僕はあの子にLINEを送る。
―僕と付き合ってください。今なら特典いっぱいです。
既読の文字が輝いて見える。
返事はすぐにきた。
―こんな時間にLINEする非常識な人とは付き合えません。
それもそうだ。
冷静な判断ができてなかった。
これも深夜の魔力か。




