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初恋の香り
彼女はいつも良い香りがする。
彼女が横を通ると、すっと風がおこり、香りが届く。
甘い香り。
甘いというか、何というか。
他にはない香りである。
つややかな髪がゆれて、その香りが届いたとき、僕は他の世界に誘われる。
いつも笑顔の彼女、
いつも優しい彼女、
僕は彼女に恋をしている。
初恋の香り。
表現力のない僕には、それしか言いようがない。
僕と彼女の距離はまだ遠い。
でも香りが届くと、一気に距離が縮まる気がする。
香りは人の心にまで届くという。
思いを強くするという。
僕は彼女の香りまで含めて大好きだ。
あるとき僕は勇気を出して彼女に聞いてみた。
「香水使ってたりする。それとも特別なシャンプーとか。」
彼女は首をかしげて答えた。
「香水は使ってないよ。シャンプーっていっても、前にお風呂に入ったのがいつだったか。」
初恋の香り、撤回しよう。




